第141話 テスト前ですが何か?

 ランドマーク家の新商品『キックバイク』が、商品化に向けて本格始動する中、リューとリーンはテストが近づいていた。


 受験以来、学年で順位が決まるテストなので、リューは気合いが入っていた。

 受験の時と比べて学ぶものは沢山増えていて、順位がどうなるかわからない。


 その中でも、貴族の必修科目であるダンスや、音楽などはリューの不得意分野である。


 特にダンスは、リューには難題であった。


 お祭りの盆踊りなら、前世で地元住民との交流目的で覚えさせられたので出来るのだが、社交ダンスとなると勝手が違い過ぎた。


 ダンスの先生にコツを聞くと、先ずは楽しみなさいと言うのだが、その前に相手の足を踏む、ぶつかる、テンポがずれる、と散々だ。


 リーンはその点、ダンスも音楽もそして、苦手そうな礼儀作法の授業もそつなくこなしていている。


 本人曰く、使う時は相手を選ぶらしい。


 こうなると一番のライバルはリーンの気がしてきたリューであったが、


「じゃあ、ダンスは私が相手して上げるから猛特訓しましょう」


 というリーンの優しい申し出に、リューはテストまでの間、ダンスを猛特訓するのであった。



「リュー・ランドマーク君、リーンさん、ちょっと職員室までいいかな?」


 午前の授業の終わりに担任のビョード・スルンジャー先生がリュー達に声をかけてきた。


 職員室のスルンジャーの席まで行くと、先生は言う。


「言いにくいのだが、テストの実技は、君達二人は少し控えめにしてくれと実技担当の先生から、お願いがあったのだよ」


「え?それは、手加減しろという事ですか?」


 リューは、生徒にそんな事を要求するのかと不正を疑った。


「いやいや、不正を頼んでいるのではなく、君達二人のずば抜けた実力を目の当たりにした他の生徒が自信を喪失させてしまう事と、施設が壊れると補修に予算が取られるという理由だよ。担当の先生曰く、『ランドマーク君の魔法の威力に耐えうる結界を張るには準備と予算がかかる』そうだ。二人の実力は以前の演習場で見せて貰ったからその分は加点するとのお話だよ」


 リューの疑念を感じた担任のスルンジャーは即座に否定して、ちゃんと説明した。


「……なるほど、そういう事ですか。わかりました。それなら実技試験は少し抑えてやりますね。リーンもそれでいい?」


「ええ、でもあの時、手を抜かないで全力でやれって言ったの、当のマジーク先生だったわよ?」


「ははは……。君達二人の実力が想定を超えていたから、対処に困っているのだよ。その辺りはよろしく頼む」


 スルンジャー先生は苦笑いすると同僚のマジークを擁護して頭を下げるのであった。


 リーンは担任のスルンジャーが頭を下げるので慌てて納得する。


「それでは失礼します」


 リューとリーンは職員室を退室すると、教室に戻った。


「二人とも、今度は何をしでかしたんだ?」


 ランスが、笑って二人を出迎える。


「いやいや、何もしてないよ。はははっ」


 リューは笑って否定すると、そこにやってきたシズとナジンも含めた三人に、掻い摘んで説明した。


「なるほどな。あの時の施設、土台から壊れてたから壁や天井、床とかもヒビ入って内装にも影響あったから修繕費用が結構掛かると先生達が話してたの聞いたよ。」


 ナジンが学校側の裏事情を話した。


 シズも一緒に聞いていたのかナジンの陰で頷いている。


「リューは規格外だからなぁ。ははは!この学園ではもしかしたら天才と名高い三年生の次期生徒会長より上かもしれないな!」


 ランスが有名な先輩と比較してリューを褒めた。


「そんな人がいるの?」


 リューは初めて聞く上級生に興味を持った。

 基本、王立学園は学年ごとに校舎と寮が別の為、他の学年の生徒と会う機会は少ない。

 学校外の方が出会う確率は高いくらいだ。


「ああ、俺やナジンと同じ歳だからな。ナジンはシズに合わせる為にずらして受験したんだろうけど知ってるよな?」


 ランスが、ナジンに話を振る。


「ああ、だが自分は彼の事はあんまり好きではないな。彼は貴族至上主義で地位に拘りを強く見せていた。……そう言えば、彼の兄も優秀な事で有名で、確かイバル・エラインダーの家庭教師を務めていたはずだ」


 ナジンの口から、思いもかけず、イバル・エラインダーの名前が出てきたのでドキッとするリューであった。


「そうなのか?……あそこの家はエラインダー公爵派閥だったっけ?それにしても、兄がイバルの家庭教師というのは初めて聞いたな」


 ランスが、ナジンの情報に驚いた。


「ははは……。どうやら僕は、その次期生徒会長とは、遭遇しない様にした方が良さそうだね」


 リューはこの二人の情報から自分が関わってはいけない人物らしい事に警戒するのであった。

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