第140話 蹴りますが何か?

 リューの学園生活はやっと快適なものになりつつあった。

 教室内でも、王女の取り巻きグループからのきつい視線も急激に減った事は察知系能力を持つリーンが教えてくれた。


 もちろんこれは、王女の一声があったからだが、リューはそれを知らない。


 余裕が出来たリューは、早速出来た時間を有意義に使う事にした。


 ランス達、隅っこグループと魔法の練習を再開したり、ランドマーク領に戻っては父ファーザや、兄タウロ、職人達と新商品の開発についての話し合いも再開した。


 その新商品に関しては、兄タウロが祖父カミーザと最近よく行く魔境の森で、新発見をしてくれた事が大きかった。


 何を発見したのか?

 それは、『ゴムゴム』の木であった。

 リューが元々、魔境の森にならゴムの木があるかもしれないと兄タウロに話した事が発端であったが、タウロはリューの話を忘れておらず、祖父カミーザと魔境の森に入る度に注意して木々をチェックしていた。

 その結果、『ゴムゴム』の木をタウロが発見、それをリューに報告した事でゴムの入手と栽培に着手する事にした。

 その一方でそのゴムで作るタイヤを使用する商品、『自転車』を作る話し合いが再開された。

 再開というのは、以前、途中で開発がとん挫していたのだ。


 幸いリューが前世の知識があるので骨組みの構造は完成されたものがある。

 なので職人に形を伝えるのは簡単だったが、前世の自転車がいかに技術の塊であるかを痛感させられた。

「今」の技術ではどうにもならない問題が多かった。


 なので以前から職人達とそれを含めた話し合いが行われ、試作品も作られていた。

 だが、出来た試作品は、車体が重く、それでいて耐久度が低い。

 フレーム部分を鉄と木で製作したが軽量化すれば、すぐ壊れ、丈夫にすれば重いという欠点があった。

 さらにはチェーンの製作もうまくいっていない。


 それに、王都進出で各商品の売り上げが急激に伸びたので、職人達は忙しくなっていた。

 なので研究開発部門の職人達も手伝いに駆りだされる事が増えていた。


 そんな理由があり中断されていたが、再開されたのはランドマークビルのオープンからやっと生産体制も安定して職人達にも余裕が生まれてきた事、リューも学園生活が落ち着き、兄タウロの『ゴムゴム』の木の発見があった事などが重なり再開されることになった。


「リューの言う『自転車』のフレームについて、提案があるのだけど。実は魔物の骨を加工してフレームに使用すれば、軽くて丈夫なものが出来ると思うんだ」


 兄タウロが目から鱗なアドバイスをしてきた。


「おお!タウロお兄ちゃん流石!確かに魔物の骨は丈夫なものがあるから武器や防具にも加工されてるものね!」


「うん。それに魔物の骨はおじいちゃんやリュー達がずっと魔境の森に入って倒した魔物を処分して置いている処理場に沢山あるから材料はほぼタダだしね」


 流石、頭の良い兄タウロである。

 リューの悩んでいた問題の一つを解決してくれた。



 こうしてすぐに、『自転車』の試作のフレームは作られた。

 車輪部分は鉄と木で仮で用意され、理想的な『自転車』の形は出来た。


「これがリューが言う『自転車』なんだね」


 タウロが、弟の発想に改めて感心した。


「うん、でも、車輪部分を動かす為のチェーンがね……」


 リューが試作品のペダルが無い『自転車(仮)』に跨って乗り心地を試しながら、ぼやいた。


 リューは自分の足で地面を蹴って進みながら、車輪の回転具合、運転性、耐久性などを確認する。


「チェーンの事はよくわからないけど、このままでも十分便利な気がするから商品化できないかな?」


 兄タウロがリューの乗っている様子を見ながら提案した。


「え?それだと、『自転車』じゃなく『キックバイク』という子供の乗り物に…。あ、そうか、別にそれでもいいのか!」


 兄タウロの言葉にリューはまた目から鱗であった。


 リューは完成型の自転車に目標を置いていたので、商品化が遠い先に感じていたのだが、兄タウロの言う様に、製作過程のものが商品にならないわけじゃない。

 実際、前世の世界ではペダル無しの「キックバイク」が子供用の乗り物として存在していた。

 こちらの人は自転車を知らないのだから、「キックバイク」でも十分驚きを持って迎えられる可能性は高い。


「タウロお兄ちゃんの言う通りだよ。『自転車』じゃなく『キックバイク』として、商品化しよう!」


 リューの悩んでいた表情は一気に明るくなった。


 周りにいたタウロやリーン、職人などは、商品化の言葉に喜びの歓声を上げるのであった。

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