第139話 出る杭が打たれそうでしたが何か?

 目立つ事を避けなくなったリューであったが、その事で一年生の間では急速に評価が上がっていた。


 勢いあるランドマーク家の子息(三男)である事は置いておくとして、先日、実力を測る為に新任の教師が演習場でリューに魔法を使用させる出来事があった。


 結果は、一年生生徒の殆どが知る事となり、昼休みの決闘も含めてリューが魔法使いとしてとても優れた域にあるらしいという評価になっていた。


 急速に興味を持たれる対象になったリューは、特別クラスでも注目される事になった。


 だが、それは良くない理由で、ランドマークが目立つ事が面白くないというのが、王女の取り巻き連中の意見だった。


 王女自身が言ったわけではないのだが、その取り巻き連中はイバル・エラインダーがいなくなって、自分達のグループが一番力を持っているという自覚があり、同じクラスメイトとは言え、地方の下級貴族の三男が目立つのは健全ではないという結論に至った様だ。


 だが、ランドマークの周囲には、エルフの英雄の娘、いくつかある貴族派閥の1つのトップに位置するラソーエ侯爵の子女、名門のマーモルン伯爵の子息、そして、王女の側にいないとおかしいと思われる名門であるボジーン男爵の子息もいる。


 なので王女殿下の取り巻き連中でも、中々手が出せない雰囲気だ。


 そこで、取り巻きは王女殿下のお手を煩わせる事になるが、直々にランドマークを注意して貰うのが良いだろうという結論に至った。


「王女殿下、最近のランドマークは調子に乗り過ぎています。殿下を差し置いて目立つなど言語道断です。我々から注意しても聞くとは思えませんから、ここはどうか殿下の厳しい一言を持って彼奴の高くなった鼻をへし折るのが肝要かと思うのですが」


 取り巻きグループを代表して有名侯爵家の次男である生徒が進言した。


 エリザベス第三王女は普段、自分を取り巻く生徒達の行動について興味がなかったので干渉する気も無く、適当にあしらっていた。

 立場を弁えてさえいれば、大抵の事は目を瞑っていた。


 だが、どうやらイバル・エラインダーの存在がいなくなって、この周囲の生徒達は勘違いをし始めた様だ。


 何時私がランドマークの存在を不快に感じていると思ったのだろう。

 私は逆にその存在を王家にとっても好ましいとさえ思っている。

 イバル・エラインダーの暴走も止めてくれた。

 それを鼻にかけるところも私は一切見ていない。

 逆にこの生徒達の方が、イバル・エラインダーがいなくなってから、権勢を振るうようになっているとさえ思っていた。


「彼が何時、調子に乗ったのでしょうか?詳しく聞かせて貰えるかしら?」


 エリザベスは頭ごなしに言わず、生徒の顔も立てて、質問する事にした。


「え?あ、その……、そうだ!イバル・エラインダーを返り討ちにした功績はありますが、その功績を盾に王女殿下を蔑ろにしています!」


「蔑ろとは、具体的に何をしたのかしら?」


「え?具体的にですか……?えっと……。そう!奇抜な馬車で通学して悪目立ちし、殿下のお心を不快にさせています。これこそがその証拠かと!」


「それは、彼の家のランドマーク製の馬車の事を言ってるのかしら?我が王家でもランドマーク製の馬車に乗っているけども実に良い物よ。私も彼が乗る馬車を目にしましたけども、面白いデザインで興味を持ったわ。それがいけない事なの?」


「え?いや……。殿下のご不興を買っているとばかり……。それに、彼の周囲には殿下の側に居なくてはいけないはずのボジーン男爵の子息もおりますし……」


「私がいつそんな事を言ったの?それに私の側に居なくてはいけない決まりなど、この学校ではないのよ。彼の父親は陛下の近習だけど私は陛下ではないわ。そして、彼は私の近習でもない。あなたはソバーニ侯爵の次男だけども、ソバーニ侯爵ではないでしょ?この学校ではみんな平等な扱いを受けないといけないわ。私は王家の者だからその義務と責任において特別扱いは仕方がないとは思っているけども……。でも、他者にそれを強いる気は全く無いわ」


 王女殿下が雄弁にここまで語る事が無かったので、取り巻き連中は驚いて言葉に詰まった。


「それに、彼はただ、学園生活を楽しんでいるだけに見えるわ。それを目立つから大人しくしてろとは、私の口からは言えないわ。みなさんも、私に気兼ねなく学園生活を楽しんで下さい」


 学園で一番偉いであろう王女殿下にここまで言われたら、自分達も貴族としての権威を振るう事は出来ない。


 それをやれば、王女殿下の言を無視する事になる。


 王女殿下の取り巻きグループはこの日を境に大人しくなるのであった。

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