第142話 テストですが何か?

 リュー達は七日間に及ぶテスト期間に入った。


 日頃の成果かリューは順調に各科目のテストをこなしていき、後半に集中してる実技テストに入っていった。


 こちらでも、ほぼ優秀な成績を残し、担任からの自粛を要請されていた魔法の実技もより正確で精密、それでいて手加減したものを見せる事で、試験官の教師を唸らせた。


「何という完成度の中級魔法だ!この時期の一年生徒とは思えない!いや、上級生でもこれ程のものは……」


 そして、その後に続くリーンもリューに負けず劣らずの中級魔法を見せて同じく唸らせた。


 ここで、さらに教師陣を驚かせたのが、ランス、シズ、ナジンの三人だ。


 ランスは補欠入学であったし、シズとナジンは優秀な部類だがそれでも一年生レベルでの話だった。

 それが、リューやリーン程ではないものの、この二人以外で、一年生は誰も使えないでいた中級魔法を使って見せたのだ。


 このノーマークの三人が使った事で教師陣はまた、驚くのであった。


「あの三人は確か休憩中、ランドマーク君達とよく話している生徒だったはず……、という事は彼とリーン君が三人に教えたのか!?」


 教師陣にしたら、自分達の教え方の上を行かれた思いである。

 他の生徒達はまだそんなレベルまで達しておらず、それどころか普通は卒業までに使える様になればよいレベルなので今の時期で一人二人いたら神童扱いされるレベルだ。

 それが五、六人もいたらそれはもう偶然とは言えないだろう。


 教師陣は自分達の教え方について自問自答する事になるのであった。



 順調なリューであったが遂にダンスのテストになった。


「……大丈夫。あれだけ練習したんだ。リーンとの相性は、バッチリだから本番もあの通りにリーンと踊れればミスは出ないはずだ……」


 ブツブツとリューは椅子に座って自分に言い聞かせた。


「リュー大丈夫?緊張し過ぎじゃない?」


 リーンが心配して声をかけた。


「だ、大丈夫!練習通りリーンと踊ってれば結果は自ずと付いてくるから!」


 ガチガチに緊張しているリューであったが、リーンに気丈に振る舞った。


「それでは、ダンスの実技に入ります。名前を呼ばれた者同士組んで並んで下さい。リュー・ランドマークと王女殿下、リーンとナジン・マーモルン、シズ・ラソーエと──」


 教師が名を次々に呼んでいく。


 相手、リーンじゃなく王女殿下なの!?僕、終わったー!


 リューは頭を抱えると内心で泣き叫ぶのであった。


「リュー!早く王女殿下の手を取って並ばないと!」


 リーンがナジンに手を取られながらリューに声をかけた。


 リューは正気に戻ると、王女に駆け寄る。


 王女はそんなリューに手を差し出す。


 リューは軽く会釈して手を取ると王女をエスコートして指定された位置についた。


 ……王女殿下の足を踏んだら、テストどころか学園生活が終わりかも……。


 リューは内心冷や汗をびっしょり掻きながら、王女に改めて笑顔で軽く会釈して手を取り、背中に手を回して準備する。


 学校が用意した楽団が音楽を奏で始めた。


 リューはリズムを取ると王女と踊り始めるのであった。



 出だしは幸いスムーズだった。


 さすが王女である。リューの緊張に影響される事なく踊り、それどころかリューに少し合わせてくれてもいた。


「上手ね。私、ダンスは得意じゃないけど、あなたのおかげで苦になってないわ」


 リューの緊張を解そうとしたのだろう、ガチガチのリューを褒めた。

 王女はダンスが苦手の様に言うが、明らかに上手い。


 流石に緊張して視野が狭くなっていたリューであったが、王女殿下に気を遣わせている事に気づく事が出来た。


「ありがとうございます。僕こそダンスは不得手でここのところずっとリーンと練習してたのですが、相手が変わると駄目ですね。緊張しちゃいます」


 リューは素直に今の心境を伝えた。


「その割に上手よ。ちゃんと踊れているわ」


 王女殿下が珍しく笑顔を見せると改めて褒めてくれた。


 その後もやり取りをしているといつの間にか音楽は止み、ダンスのテストは終了したのであった。




「王女殿下のおかげで無事に終えられた……!」


 鬼門であったダンスを乗り越えられたのでリューは小さくガッツポーズをした。


「上手だったじゃないリュー!」


 リーンがナジンにエスコートされながら戻ってきた。


「王女殿下が僕に合わせてくれたんだよ。じゃないと今頃、緊張で王女殿下の足を踏みまくってテストは落第点付けられてたと思う……」


 リューは安堵のため息を吐くのであった。


「王女殿下はそんな気遣いが出来る方だったのか。これは、リューのテストの結果より、その点を知れた事が大きいな」


 ナジンが感心して頷く。


「リューの事も褒めて上げなさいよ。王女殿下の足を踏んでたら、点数どころじゃなかったかもしれないのよ?」


 リーンが怖い事を言う。


「……そうだよね?本当に踏まなくて良かった……!」


 リューは、改めて王女が自分に合わせてくれた事に感謝するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る