第126話 飛びますが何が?
ランドマークビルで人気があまりない二階のお店の一角がある。
それは、ランドマーク領内の工芸品を置いている木工細工店だ。
ランドマーク領内は元々森が深い上に、魔境の森もそばにあるので木材資源が豊富であり、そこに職人達が多く移住してきたので、木工細工が盛んになって来ている。
なので今回の王都進出に伴い、その木工細工の出来の良さから二階に店舗を出したのだが、ランドマークと言えば、『コーヒー』と『チョコ』、そして、『乗用馬車一号』ばかりが注目を集めているので、それらに比べたらお客の数は圧倒的に少なかった。
「他のお店に比べて庶民的な商品が多いのが逆にいけないのかな……」
リューはビルの総管理責任者のレンドと三階のビル管理事務所で話し込んでいた。
「坊ちゃん。元々品質は良いので、デザインを変えて富裕層向けにしたらどうですか?」
「王都には富裕層に強い高級家具店が沢山あるからなぁ。うちは材料が安くで入手出来てる分有利なところを活かして中流階級ウケするもので勝負したいのだけど……」
「ランドマークのイメージには高級さがありますから、中々庶民はこの二階の店舗には近づかないですよ」
レンドが言う事も最もだ。
一応、一階には手押し車やリヤカーなど庶民派な商品が置いてあり、売れ行きも上々なのだが、二階に上がってくるのは圧倒的に富裕層が多い。
その雰囲気に呑まれてか中流階級の庶民は近づきがたい様だ。
「試しに手押し車やリヤカー展示場に木工細工店の商品も並べてみようか」
「それは良いですが、目を引く商品が欲しいですね。それでお客を集める事が出来れば、あとは職人の腕は確かなので一度購入して貰えれば満足頂けると思うんですよ」
「目を引く商品か……。おもちゃで良いなら心当たりがあるんだけど」
「おもちゃですか?お客の気が引けて店内に入って貰えれば、何でも良いですよ」
「材料も魔境の森で見つかった竹だからほとんどお金かからないし、ちょっと職人さんにはそれを使った商品を幾つか伝えて領内で作って貰ってるんだけど、おもちゃの事は忘れてたや」
「竹っていうと、あの中身が空っぽのやつですか?あんなものが材料になるんですか?中身が空っぽだから木材としては使えないと思うんですが……」
レンドは竹の存在を知ってるだけに疑問だらけの様だ。
「ふふふ。とても単純なおもちゃだけど王都で見かけないから、きっと驚かせる事は出来ると思うよ」
リューは二階にレンドと降りて行くと、木工細工店に直行し、奥で作業をしている職人におもちゃの説明をして早速作って貰った。
ものの5分程度で作られたおもちゃ、それは竹とんぼだった。
「……坊ちゃん。何ですかこれ?平たい板に棒を刺しただけじゃないですか。これは駄目ですよ」
レンドはとてもじゃないがお客の目を引きそうな商品じゃないと断言した。
「まあまあ、じゃあ、表に出て実演するから」
リューはビルの表にレンドを連れていく。
表に出るとリューは竹とんぼを手をこすり合わせる様に挟んで飛ばして見せた。
竹とんぼは勢いよく回転すると空に舞い上がり浮遊する。
その姿にレンドは口をぽかんと開けて見つめていた。
竹とんぼが動力を失い地面に落ちると、初めてそこでレンドは正気に戻る。
「な、なんでこんな簡単な作りの物が空を飛ぶんですか!?伝説の『浮遊』魔法ですよねこれ!?」
レンドは竹とんぼに魔法がかかっていると勘違いした。
なまじ魔法が使える世界なので、こんな単純なものでも作られる機会がなく、最初に頭を過ぎるのは魔法による『浮遊』なのだ。
「ははは、魔法じゃないから!これがおもちゃの竹とんぼだよ。簡単だけどレンドの様に驚く人は多いだろうから、客寄せ程度には使えると思うよ。そうだ!このビルの前で定期的に実演してみせて二階の木工細工店に安くで置いてると宣伝したらいいかもね」
リューはレンドの反応を楽しみながら提案した。
「……これは、度肝抜かれるお客は多いですよ。……というかすでにこっち見てる通行人いますから」
たまたま竹とんぼが飛ぶところを見ていた通行人が興味津々とばかりにこちらを見ている。
「近日中に二階の木工細工店で販売しますのでご期待下さい」
リューは通行人に声をかける。
「坊ちゃん、構造はわかりませんが、これは商業ギルドに申請した方がいい代物ですよ!見た限り作りが単純なのですぐ真似されます!」
「真似されてもいいものだから。今は、みんなの目を引いてお店に足を運んで貰えればいいよ」
リューはこの竹とんぼで儲ける気はなかった。
とにかくお店に来て貰い、安くで売る。そして次いでで職人達自慢の商品を手に取って貰う機会を作る事が目的だからだ。
「ですがこんな画期的なもの、自分は初めて見ましたよ?本当に魔法じゃないんですよね?」
レンドはリューの手にある竹とんぼをまだ信じられないという様にマジマジと見つめるのだった。
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