第119話 見せ場を失いましたが何か?

 お昼休みを挟んで、リュー達は武術の授業があった。


 基礎である剣を習い、他の得物にも慣れ親しむのが目的の授業だ。


 リューはその剣が得意だが、『器用貧乏』と、『ゴクドー』スキルの能力『限界突破』のおかげでほとんどの武術が高水準にある。


 リューは最初の頃、別に極める為に色々やったわけではなく、基本ステータスの補正が付くから色々な武器で熟練度を上げていたのだが、結果的にそのおかげで自在派と言えるほどには武器を使いこなす事が出来た。

 なので、まずはみんながどんなレベルなのかと、観察する事にした。


 そこでリーンだ。

 リーンは基本、弓を扱うが、細剣レイピアも得手としている。

 弓程ではないが、熟練度はかなり上がってるので、みんなの相手をする事にした。


 いざ班内の練習になると、武術が得意分野で年長者のランスはリーンと激しい模擬戦を展開して他の班の視線を集めた。


 リーンは手加減しているのだが、周囲からは二人のレベルが高い水準で拮抗していると見えた様で、歓声が上がる。


「凄いな、あの二人! さすがランス・ボジーン、あのボジーン男爵の息子だな。それにしてもリーンさんは魔法だけでなく剣も凄いのか!」


「いやいや、彼女の得手は弓だと先生達から聞いているぞ?」


「じゃあ、得手でない剣でボジーン男爵の子息と互角に渡り合っているのか!?」


 他の班の生徒達が驚きにざわついている中、リーンとランスは手を止めた。


「参ったな。互角のはずなのに勝てる気がしないや。凄い剣の腕だな、もしかしてこの学年でトップじゃないか?」


 呼吸を整えながらランスはリーンと握手をし、称賛した。


「私がトップなわけないでしょ。私より剣技が上の人はいるわよ」


 チラッとリューを見るリーンであったが、周囲の者はそれに気づかず、発言を謙遜と受け止めると、改めてリーンを絶賛するのであった。


「じゃあ、次はナジンが私とやってみる?」


 リーンがナジンに話を振る。


「ランスの後だと気が引けるが、自分も剣の腕は磨いてきたから相手して貰おうかな」


 そう言うと、訓練用の木剣を手にしてリーンと模擬戦を始めた。


 ナジンもランスと同じ十四歳で年長組なので剣の腕はかなり良かった。

 リーンとも、ランスの時の様に互角に渡り合っている様に見える。


 ランスに引き続きナジンの剣術の凄さに、また、周囲はざわついた。


「彼は誰だ? ボジーン家の彼と同じくらい強いんじゃないか?」


「凄いな! リーンさんとまた、互角に渡り合える奴がいるとは!」


「何を言っている。彼はマーモルン伯爵家の長男だぞ?」


「ラソーエ侯爵の右腕と名高いあのマーモルン伯爵家か!」


 どうやら、ナジンも凄い家の長男らしい。


 こうなったら僕も少しはアピールしないといけないな!


 リューは勇んで木剣を手にして立ち上がると、そこにシズが声をかけてきた。


「……私も頑張りたいから相手して貰っていいリュー君?」


 授業前に武術は苦手だと言っていた控えめなシズがやる気を見せた。

 みんなに感化された様だ。


「わかった。僕が相手するよ」


 リーンとナジンが剣を交えてる横で、リューとシズも模擬戦を始めた。


 隣の二人と比べたらおままごとの様な戦いだが、意外にシズは剣が振れていた。


 どうやら、全くの素人でもないらしい。

 もしかしたらナジンが日頃、相手をしているのかもしれない。


 リューはシズに合わせて剣を振り、力を引き出す様に相手をした。


 そうするとリーンとナジンはこの二人の事が気になったのか手を止めると模擬戦を終了した。


 そこへ、そのリーンとナジンの二人を観戦していた生徒達から拍手が送られ、改めて称賛するとみんな散っていく。


 シズの相手をしていたリューは、


「そうなるよね……」


 とアピールする機会を失った事を内心残念がったのが、今はシズに教える事に集中するのだった。


「……驚いた。シズが自分から剣術の練習を望むなんて」


 ナジンがリューと打ち合うシズを見て保護者の気分にでもなったのか温かい目で見守り始めた。


 そして、見守りながらある事にナジンは気づいた。

 リューの体捌きが強い者のそれに被って見えたのだ。


「もしかして……、リューは剣の腕もそれなりに優れているのかい?」


「それなりじゃないわよ? リューは私よりももっと強いのよ。ランスとナジンもそれなりに強いけど、リューの足元には及ばないわ」


 リーンは自慢げにリューの強さを誇ってみせるのだった。

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