第120話 評価は上がりましたが何か?

 クラスでのアピールを仕損じたリューであったが、班での評価はさらに上がった。


 リーンの言う通りなら魔法だけでなく、剣術も相当優れているらしい。

 ランスもナジンもリーンには勝てなかったからそのリーンが言うのなら疑う余地はない。



 休憩時間になるとリーンの周囲にはクラスの生徒達が集まってきた。

 魔法も優れ、剣も有名なランスとナジンと互角の立ち回りを見せた上に英雄の娘なのだ。

 将来的にお友達になっていた方が良いと判断した貴族の子息子女達であった。


「剣はやはり、父親であるエルフの英雄、リンデス様から習ったのかしら?」


「英雄譚ではリンデス殿は弓の名手となってますが、剣もさぞ優れているんでしょうね!」


「やはり、この学園卒業後はリンデス殿の片腕として自治区で重職に付かれるのかな?」


 クラスの生徒達の質問にリーンはうんざりする思いだったが、粗野な対応をすればランドマーク家の名に傷が付く、リーンなりに相手をするのだった。


「父からも少しは習ったけど、剣についてはほとんどリューのお父さんやおじいちゃんから習ったわ。ランドマーク家の人達は剣も魔法も優れているの。父は確かに弓の名手だけど剣の腕はリューのお父さん達が優っているわ。あと私、家を飛び出してきてるから、学園卒業後はリューの従者を続ける予定よ」


「リュー?」


「ランドマーク?」


「従者?」


 リーンなりの答えに、知らない名前、知らない家名、さらには自分を従者と言う事に、生徒達は疑問符だけが頭に浮かぶのだった。


 そんなリーンをリューは慌てて腕を掴んで引っ張り、自分達の班に戻した。


 クラスの生徒達は消化不良のままだったが、自分の班に戻ってしまったリーンに再度聞くわけにもいかず、散会するのだった。


「リーン、ランドマーク家や僕の事を初対面の人達は知らないんだから、急に言っても駄目だって」


 リューは笑ってリーンを注意した。


「ごめんなさい、慌てちゃって……。でも、クラスメイトがリューの名前も知らないのは、失礼じゃない?」


 リーンがもっともな事を言った。


「それはそうなんだけどね……。というかその事実に僕が傷つくからそれ以上は言わないで」


 リューは苦笑いすると胸を押さえる素振りをみせた。


「あ、ごめんなさい。そうよね、私達これまでは目立たない様にしてたのだから気づかれなくても当然よね」


 リーンは目立ってたけどね。


 内心、ツッコミを入れるリューであったが、王女殿下の人となりが少しわかった以上、これからクラスメイト達にも少しずつアピールしていこうと思うリューであった。


 放課後。


 班のみんなの馬車が迎えに来る間、リューは少しだけ魔法の手ほどきをみんなに行った。


 手ほどきと言っても、ランス、ナジン、シズは基礎部分は出来ているので、あんまり教える事はないと思っていたのだが、どうやらみんなは中級魔法を使う時はその分の魔力をまず込めて各自の使う属性魔法に変換しているらしい。


 それだと込めた魔力量が適当なので多かったり少なかったりとバラバラで、適量を込めれる様になるまでに時間と労力がかなり必要になる。


 リーンとリューはその逆のやり方をしていて、最初から属性魔法に魔力を変換しながら込めていくという難しい方法を取っている。


 母セシルが教えてくれたやり方だが、各種の魔法を使える量まで適正で魔力を込め、すぐ様発動するので無駄が一切なくて済む。

 なので魔力が少なすぎて不発に終わる事や、多過ぎて無駄に魔力を消費するという事がかなり無くなるのだ。


 このやり方に慣れると後が楽なので、初級魔法で三人には特訓して貰う事にした。


「このやり方……、難し過ぎないか? 俺には出来る気がしない……」


 ランスが、魔力を込めるのと属性魔法に変換するという事を同時にする複雑さに早くも弱音を言い出した。


「これは慣れだから毎日ずっとやっていくしかないよ。僕とリーンも最初は苦戦したからね。これが出来る様になったら後が楽だよ」


 ナジンとシズは黙々と手のひらの上で初級の火魔法、水魔法をお互い唱えては失敗するのを繰り返している。


 練習しているのが玄関脇だったので、このグループを見て他の生徒は、


「初級魔法を今頃練習してるぞ?」


「え? マジか!」


「それも、失敗してるじゃん。よく、この学園に入れたな」


 と、陰口を言われるのであった。


「あ、三人とも、練習は家でやった方が良さそうだよ」


 陰口に気づいたリューがそう提案したが、三人は集中している。


「……この集中力なら、すぐ覚えられるかもしれない」


 リューはリーンと目を合わせると笑って頷くのであった。

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