第118話 教師も驚いていますが何か?

 初めての魔法の実技授業は、リーンの風の中級魔法の使用で他の生徒達から注目を集める事になった。


「ねえ、リーンさん。次からうちの班に入らない?」


「ちょっと、何言ってるのよ! リーン様、うちの班に来てよ!」


「君達! エリザベス王女殿下を差し置いて抜け駆けするつもりか?」


「……そ、それは」


 生徒達が言い合いをする中、名前が挙がった王女殿下は、さほど興味はないのか一緒の班の取り巻きと話をしてリーン達には見向きもしていない。


 その様子を見て、リューは内心安堵した。


 興味を持たれ、場合によっては難癖をつけられたらクラスに居られなくなる可能性がある。

 まだ、学園生活は始まったばかりだ、それだけは避けたい。


 だが、王女殿下はそういう事には興味がないタイプなのか反応がないので良かった。


「……何となく王女殿下の性格が少しずつわかってきたね」


 リューは同級生達から解放されて戻ってきたリーンにそう漏らした。


「そうね、少なくとも騒ぎ立てる人じゃないみたいだから、安心ね」


 二人がそう話していると横からランスが会話に入ってきた。


「エリザベス第三王女殿下に悪い噂はないぜ? 表に出てこないだけかもしれないけど、物分かりは悪くないと思う。隣のクラスのアレに比べたら王女殿下は女神かもしれない」


 国王の側近の息子が言うのだ。

 これは貴重な情報だろう。

 それならば、このクラスは快適かもしれない。

 とにかく同じクラスなのだ、王女殿下の気分を害する事が無い様に節度を守り、学園生活を過ごす事が大事なのは変わらない。

 しかし、緊張を強いられる事がない様なので気持ちがグンと楽になるリューであった。


「リーンだけじゃなく、リューも凄い事を自分達は知ってしまったんだが、これは秘密にした方が良いのかい?」


 ナジンが、リューとリーンの気持ちを察して聞いて来た。


「……うーん。僕達は本来なら、普通クラスに居てもおかしくない人間だからね。目立つ事がプラスに働くのかわからないから、今は慎重になってるんだ」


「……そうか、そういう事なら黙っておくよ」


 ナジンがそう言うと、その傍にいたシズも大きく頷く。


「ところで……。良かったら自分とシズに中級魔法のコツを教えて欲しいんだが……」


 ナジンがリューにそう言うと、シズもまた大きく頷いた。


「でも、二人は宮廷魔法士団の現役の人から学んでいるんだろ?僕らで教えられるかどうか……」


 リューはリーンと目を合わせると出来るかどうか二人で考え込むのだった。


「正直、二人が見せてくれた中級魔法はうちの先生より威力があったからさ。二人から学んだ方が早そうだと思ったんだ」


「そうなの? 僕達は親や祖父から学んだ後は実戦で磨いたって感じだから、人に教えれるかどうか……」


 また考え込むリューであった。


「そこを何とか頼む」


 ナジンが手を合わせてお願いする。


 そしてシズも手を合わせるポーズを取った。


 その後ろでさらになぜかランスも手を合わせている。


「……いいけど僕達がやってきたやり方でしか教えられないよ? それでいいなら」


 リューが根負けして頷くと三人はやったーとガッツポーズをするのであった。




 初めての実技の授業はリーンがどうやら凄い魔法使いだという評判がクラス中に認知されたものの、無事に終わる事になった。


「リュー君、リーンさん、少し残ってくれるかな」


 魔法の実技教師に二人は呼び止められた。


 ランス達には先に教室に戻って貰う。


「リュー君、君は受験の時は土魔法で受けたと聞いていたのだが、火魔法が得意だったのか」


「いえ、火魔法はそこまででもないです。さっきは友人が中級の火魔法の話をしていたので、つい、出しちゃっただけです」


「つい、で、あの威力なのかい!? ……二人とも出身地は南東部のランドマーク領になっているが、誰から学んだんだい?」


 教師は完全に個人的な興味で質問して来ていた。


「主に基礎からは母に教わり、その後は……、祖父から実戦を交えて威力重視で覚えました」


 リューが思い出しながら答える。


「実戦?」


 教師は王都では演習授業でもそう使わない言葉に疑問符が浮かんだ。


「はい、ランドマーク領は魔境の森と接しているので、魔物が多いんです」


「え?じゃあ、実戦とは魔物を相手にという事かい!?」


「はい、魔物を相手に僕とリーンは実戦を繰り返してきたのでそのおかげだと思います」


 リューは、日常茶飯事であった経験を言ってるだけなのだが、担当教師は言葉を詰まらせ固まった。


「……その魔物とはもちろん中級魔法で倒す程の相手かな?」


「いえ、中には中級魔法の一撃では倒せない魔物もいるので、そこは剣と組み合わせて戦ってました」


 本当は上級魔法で倒す事もありますと言いたいところだったが、リューはそれは言わない事にした。


「中級魔法で倒せない!?……わ、わかりました……。君達二人はどうやら私の想像をはるかに超える経験をしてきている様だ……。今後、私が二人に何を教えられるか考え直さないといけないな……。時間を取らせたね、二人とも教室に戻って次の授業に備えて下さい」


 嘆息交じりに担当教師は漏らすと、二人に教室へ戻る様に促すのだった。

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