第117話 実技の授業ですが何か?

 学園の屋外にある敷地の一角。


 そこは実技試験が行われた的が設置された場所であった。


「今日の授業は、みなさんわかってると思いますが、魔法の実技です。受験の時に体験してると思いますが、この場所は特殊な結界で覆われているので多少の魔法ではビクともしません。なので、大いに自分の力を示して下さい」


 わかり易く魔法使いの恰好をした魔法実技担当の男性教師が生徒を見渡しながら説明した。


「あ、それと魔法には種類や個人差があります。その事で同級生を馬鹿にしたり貶したりしない様に。各自得意不得意がありますからね。この学校を卒業する頃には各々が得意な魔法を磨いて国の為、家の為に貢献できる人材になって下さい。それでは、5人一組で各自別れてお互いの得意魔法を教え合って理解していきましょう。的を使うもよし、魔法人形に試すもよし、広範囲魔法はちゃんと結界魔法で仕切られた区画で行う様に」


 担当教師がそう言うとみんないつものグループに別れていく。


 ナジンとシズもリュー達に合流してきた。


「じゃあ、よろしく」


 ナジンがリュー達に声をかけていると、早速、あちらこちらで的に向けて攻撃魔法を披露する生徒が出てきた。


「どうだい?この日の為にCランク帯冒険者の教師を付けて貰って特訓してきたんだ!」


「僕は、元宮廷魔法士団出身の先生を付けて貰ったからね。基礎なんて朝飯前さ」


「ふふふ。私は去年から魔導士スキルを持つ祖父から教わってるわ」


 みんな得意の魔法を見せながら自慢が入る。


 確かに自慢するだけあって基礎は完璧で威力もある。

 さすが王立学園合格者達だ。


 だが、ひとつリューは疑問に思った。


「みんな初級魔法ばかり使ってるけど、中級魔法や上級魔法は使わないのかな?」


 リューは、不思議に思い、リーンに聞いたがリーンも同じ様に思った様だ。


「そうよね? 私達だけ使って目立つのは駄目なんでしょ? なら同じ様に初級魔法にしておきましょう」


 リーンがそう言うと、ランス、ナジン、シズがそれを耳にするとナジンが代表して二人に聞いて来た。


「リューとリーンは中級以上の魔法が使えるのか?」


「うん?……それはここだけの話、使える」


 どうやら、自分達が何やらおかしな事を言ったらしい事を悟ったリューが小声でナジンに答えた。


「そうなのか!? ……凄いじゃないか! 僕やシズは同じ現役の宮廷魔法士団の先生に習って今年から中級魔法を学び始めたんだが、まだうまくいってなくてね」


 聞けばナジンは火系魔法を、シズは水系魔法を得意にしてる様だ。


「僕は基本的には全属性魔法を使えるけど、一番得意なのは土魔法かな。リーンは風魔法と土魔法、水魔法が得意だよ」


「ほら、そこのグループ!話してばかりいないで魔法を使ってみせなさい」


 魔法実技の担当教師がリュー達を注意する。


 注意されて慌てたリューは、ナジンの火魔法という言葉が残っていたので咄嗟に的に中級の火魔法を使ってしまった。


 それもただの中級魔法ではなくよく操作された高威力のものだったので、的は大きな衝撃音と共に見事に炎上した。


 的は特殊な魔法耐性が施されているので、普通魔法が当たると衝撃と共に、魔法を打ち消すのだが、消えずに炎上してるという事はそれだけの威力があるという事を物語っていた。


 他の生徒達は、一番端の的が大きな衝撃音と共に炎上してるのを見てざわつき始めた。


「なんだなんだ? あれ、どうなってるの?」


「さあ?的の魔法耐性がうまく作動していないんじゃないかな?」


「そういう事か! 凄い音がしたから誰か凄い魔法を使ったのかと思ったよ」


「ははは! そんなわけないさ。的が壊れていないとあんなに燃えるわけないじゃん!」


 生徒達はリューが魔法を出す瞬間を見ていなかったので、憶測で的のせいと決めつけた。


 ただし、注意した教師は一部始終を見ていたので一瞬呆気にとられていたが、慌てて生徒名簿をチェックし始めた。


「リュー・ランドマーク……、という事は試験官をした先生達が騒いでいた子か! これは驚いた……」


 まだ、驚きが抜けない教師であったが、正気に戻ると急いで火を消す為に魔法を唱えようとした。


 すると、一足先にリーンが中位の風魔法を使って的の火を消し飛ばし、的の表面をズタズタに傷つけた。


 この光景はさすがに他の生徒達も見ていて、


「スゲー威力! さすがエルフの英雄の娘だ!」


「凄いわリーン様!」


「今のは中級の魔法では!?」


「流石にそれは無いだろ? ……無いよね?」


 と、騒ぎになり始めた。


「……ははは。せっかく的のせいに出来るところだったのに……」


 リューが呆れてリーンに言う。


「え? だってリューが中級魔法を使うから、そこまでならいいのかなって思ったのよ!」


 リーンは慌てて言い訳をするのだった。

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