第116話 1日が始まりますが何か?

 ナレーション)

 ランドマーク男爵家三男であるリューの朝は早い。


 ランドマーク家は王都進出の為にランドマークビルを一等地に建て、リュー自身は王立学園に優秀な成績で合格、お家の為に日々努力を重ねている。


 今日もまた彼は目覚めると、すぐに自身が持つ稀有な能力『次元回廊』を用いて遠く離れたランドマーク領の実家に様子を見に行く事から朝が始まる。


「…そうですね。まずは、実家で家族に挨拶をして様子を聞き、家族のスケジュールを確認すると、王都のお店で必要な商品を実家の側に建てた倉庫からマジック収納に納めて一度王都に戻り、王都の従業員にそれを引き渡します。家族が王都に来る事も度々あるので人の移動も朝から『次元回廊』で行ってますね」


 ナレーション)

 わずか12歳の少年がランドマークの王都進出の鍵を握っているのだ。

 彼も使命感に燃えている。


「学業との両立ですか?もちろん大変です。でも、それ以上にやりがいを感じています。全てはランドマーク家と領民の為と思ったらこのくらいへっちゃらです!」


 ナレーション)

 そう答えると、この12歳の少年は彼の本分である学業の為、従者であるエルフの女性と一緒に学校に向かい、朝の賑わう通りの人混みの中に消えていくのであった。


 テッテ~テ~レ~レ~♪テレレレ~♪


 ──完──



「って、何よそれ。私、名前も出てこないじゃない?」


 リューの◯熱大陸風の一人語りにリーンがツッコミを入れた。


「いや、◯熱大陸は、主役にスポットを当てる番組だから他の情報についてはね?」


「言ってる事は間違いないから良いけど……。というか何よその◯熱大陸って。また、ゴクドー用語なの?」


「違うけど……。まあ、そんな感じでいいや。ははは……」


 リューとリーンは朝から乗り合い馬車の停留所でそんな他愛もない事を言い合いながら、やって来た四頭引きの大きな乗り合い馬車に乗り込んだ。


 始発なので中は少ないがリューとリーンが左の一番前に座ると次々に他のお客も乗り込んでくる。


 荷物を抱えてる者、仕事先に向かうであろう者、観光なのか座るとすぐに王都の地図を広げる者、制服の種類は違うが同じ学生で通学する者、色んな人が行く先々で乗っては降りを繰り返していく。


 リューとリーンが王立学園前に到着する頃には、馬車内は王立学園の生徒がほとんどになる。


 だが、特別クラスの生徒はリューとリーンだけだ。

 そう言う意味でも、二人は普通クラスの生徒達から顔を知られ、目立ち始めていた。

 乗り合い馬車内では生徒達のひそひそ話でリーンの名前もつぶやかれ、耳の良いリーンにはそれが聞こえていた。


「流石に入学して十日以上も経つと顔も覚えられてくるから、特別クラスの生徒だとばれ始めたわね……」


 リーンが、乗り合い馬車をリューの手を借りて降りるとそう漏らした。


「リーンの容姿も目立ってるんだけどね」


 リューが笑いながら答える。


「私? エルフやドワーフ、獣人族の生徒もこの学園にはいるじゃない」


 リーンがリューの返答に疑問符を浮かべた。


「まあ、リーンが思う以上に、普通クラスでは君は知名度が高いって事さ」


「そうなの? それよりランドマークの名を有名にしないと」


 リーンは真面目にそう答える。


「それは確かに、その通り」


 リューはリーンの正論に頷くのだが、有名になったらなったで王女グループに目を付けられるのではないか、もしくは隣のクラスのイバル・エラインダーグループに叩かれるのではないかとも思える。


 この辺りは微妙な問題だった。

 突然有名になるのではなく、じっくりと自然な形で浸透していき、受け入れられる形が今は一番良い気はしている。


 なのでランドマーク印の商品が先に有名になっていき、


「え? 君のとこの商品なの? うちも愛用してるよ」


 くらいの反応が望ましい。


 急だと、


「調子に乗るなよ!」


 と、トーリッター伯爵の様な反応をする輩が出てくる事は経験済みなので避けたかった。


「今は、ほどほどにしておこう」


 リューはリーンにランドマークの名は、今はあまり口にしない様に釘を刺すのであった。


「おはよう! リュー、リーン!」


 同級生のランスが丁度馬車から降りて来て、二人に気づいて駆け寄ってくる。


「「おはようランス」」


「おう! 今日からはいよいよ基礎のおさらいの授業から、本格的な実技もある授業が始まるな!」


 ランスがウキウキしながら言った。


「そうだね。みんなどのくらい凄いのか楽しみだよ」


 リューは三位の成績で合格した身だが、当時、他の受験生と比べる余裕はあんまりなかった。

 どのくらいの差で自分が合格できたのか測りかねていたのだ。


 もしかしたら差はわずかで、もう、追い抜かれている可能性もある。


 それを知る事でこれからの努力の仕方も変わるというものだ。


 そういう意味でもリューはこの日を楽しみにしていたのだった。

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