第97話 合否ですが何か?

 ランドマーク領の城館、合格発表の前日の夜。


 発表を前に、リューは違う事に喜んでいた。


 それは、王都にランドマークビルを構えた事だが、


「ついに、王都にランドマーク家組事務所が持てるって嬉しいよね!」


 と、リューはリーンに喜びを伝えた。


「クミジムショ?ああ、いつものゴクドー用語ってやつね?」


 リーンは慣れたもので、リューのこの辺りの意味不明な言葉にも柔軟だった。


「そんな感じ。あとは、表に組の大看板をドーンと出して、ランドマーク家をアピールしたいね!」


「それはいいわね。何の建物かわからないから、看板は大事だわ。職人さんにお願いした方がいいかも」


「もう、予約してる!」


 リューはとびっきりの笑顔でリーンにグッドサインを送る。


「一応聞くけど、ファーザ君にはちゃんと話したの?」


「後で話そうかと……」


「……変なの作ったら怒られるわよ?」


「それは大丈夫だよ。純和風な行書体で組の雰囲気を前面に出して貰う様にしてるから!」


 リューは、完全にに寄せようとしていた。


 それを聞いたリーンはリューが暴走していると判断、ファーザに知らせてくると告げると、リューの部屋を出ていった。



 三十分後、職人が城館に呼ばれ、看板製作の一時中断が決定した。


 そして、その5分後、リューは執務室でファーザから説教される事になったのだった。


「明日は、合格発表だから、もう寝なさい」


 ひとしきり説教すると、もう、寝かせる事にした。


 ファーザはリューのこの行動力には頭が下がる思いだったが、たまにゴクドースキルに影響されているのかよくわからない言動がある。

 親としてまだまだ、子供の成長を見守る必要がある様だ。


 もうすぐ、長男タウロも学校を卒業して家に戻ってくるし、楽しみは尽きないな、と思うファーザであった。




 合格発表当日。


 リューとリーンは早起きすると、朝一番でランドマークビルに『次元回廊』で移動。

 合否の発表会場である王立学園にすぐに向かった。


 合否が気になったというより、ランドマークビルでやる事が多いので早く確認してしまおうという考えだった。


 リューはすでに、合格を諦めていた。


 リーンが合格していたら、それはそれで来年に期待が持てる。

 自分は今年の失敗を教訓に頑張ればいい。


 会場に到着すると、そこには沢山の受験生がすでに押し寄せていた。


「朝早いのに、みんな凄いな……」


 自分達が早く来すぎたかもという心配は無駄だった様だ。


 受験生達にとっては、将来がかかっている一大イベントであるのだから当然だった。


 学校関係者が掲示板の前に立っている。


 掲示板は布で覆われていて、発表はまだのようだ。


 受験者達は息を飲んでその前で待機している。


 ざわざわと受験者と同行者が話していると、校舎内から別の学校関係者が現れ、掲示板の前に立つ学校関係者に合図を送った。


 すると、頷いた学校関係者が一斉に掲示板を覆っていた布を外し始めた。


 ざわついていた一同は息を飲んで静かになり、布が外された瞬間だった。


 掲示板の最前列で待っていた受験生が、


「あったー!」


 と、歓喜したのを皮切りに、方々で歓喜の声が上がった。

 それとは対照的に、まだ、みつけれない受験者は何度も何度も掲示板を見ている。


 リューとリーンも前の方に移動して、掲示板を見た。


 リューは1111番、リーンは1112番だ。


 ドクンドクン


 いざ掲示板を前にすると不合格を覚悟してるリューの心臓も拍動を速めた。


 1100番、1107番、1118番……


「僕だけでなく、リーンも!?」


 リューは自分はともかくリーンの番号が無い事に驚いた。


 リーンは思ったより冷静で、


「二人とも不合格みたいね。来年また頑張りましょう」


 と、リューに気を遣う様に声をかけてきた。


「……いや、ちょっと待ってリーン。これ、ジーロお兄ちゃんのパターンもあるよ?」


「ジーロの?」


 そう、次男ジーロがリューに教えてくれたのは、成績優秀者は、別の掲示板に表示されているというものだ。


 自分はともかく、リーンは高評価を受けていたのは確かだ。

 落ちてる方がおかしい。


 すぐにリーンの手を掴むと成績優秀者が張り出されていると思われる掲示板まで引っ張って行った。


 そこに張り出されていたのは、


 一位エリザベス・クレストリア王女殿下

 二位イバル・エラインダー公爵子息

 三位リュー・ランドマーク男爵子息

 四位リーン リンド森の村、村長の娘

 五位ライバ・トーリッター伯爵子息

 ……


「「え?」」


 リューとリーンは二人とも無いと思いっていた自分の名前が上位にある事に驚き固まった。


 そこに、受験会場で意気投合したランス・ボジーンがリューとリーンをみつけて話しかけてきた。


「リュー・ランドマーク、元気だったか?ははは!上位合格者が気になったのか?上は気にするなよ。パッと見、王女殿下とエラインダーは王族と上級貴族枠だ。出来レースだよ。だから、順位は三位からが、本当の一位みたいなもので……。え?」


 三位にリュー・ランドマークの名があるのに気づいてランスも固まるのだった。

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