第92話 試験当日ですが何か?

 連日リューは受験までの間、勉強と職人達の送り迎えをしていた。


 流石に宿屋に設置してあった『次元回廊』の出入り口は、ランドマークビル(仮)の五階の一室に設置し直した。


 これ以上はお金を支払っているとはいえ、宿屋側にも迷惑はかけられないからだ。


 リューとリーンも宿屋からランドマークビル(仮)に移りたいが、まだ、内装が終わってないので移るのは受験後になりそうだ。


 リューの部屋で受験勉強をしていたリューとリーンは、勉強を見る為にやってきていた母セシルの元、最後の追い込みをかけていた。


「やっと明日ね」


 リーンがリューに話を振る。


「そうだね。明日は筆記だから、今日で勉強も終わりだね」


 リューはやっとこのテスト地獄から解放されると、その事に喜んだ。


「二人ともこれまでよく頑張ったわ。後は明日にぶつけるだけよ。結果は私もわからないけど、合格するにしても落ちるにしても悔いが残らないようにね」


「「うん!」」


 二人は元気良く頷くと明日に備えるのだった。




 筆記試験当日。


 二人は王立学園の校門をくぐり、敷地内に入った。


「やっぱり人が多いね。こんなに同年代が沢山いるの初めてだよ。あ、僕達の試験会場はあっちみたいだ」


 リューがリーンに声をかける。


「本当ね。私もこんなに多いの初めて。みんな頭が良さそうに見えてきたわ……」


 普段緊張しないリーンも緊張してきた様だ。


 リューももちろん緊張していたが、学校の敷地内の施設を見ながらランドマーク領で真似できる物はないかと観察する事に気を取られてリーン程は緊張していなかった。


「はっ。田舎者だとすぐわかる奴がちらほらいるな!」


 数人の取り巻きを引き連れて、いかにも上級貴族と思われる金色の短髪に、赤い瞳の少年が、歩いてきた。身長はリューと同じくらいだろうか。


 周囲はその存在に気づくと、道を空けていく。


「何あれ?偉そうな子が来たわね」


 リーンがリューに呟いた。


「あれは、エラインダー公爵様のところの長男だよ。今年の試験でトップ合格を目指してるらしい。他にも王家の三番目の王女殿下も受験するから、この二人の争いだろうな。関わらない方が無難だぜ」


 リューとリーンの近くにたまたまいた、リューより身長が高い茶色の短髪に青い瞳の少年が教えてくれた。


「へー。そんなに優秀なんだ?教えてくれてありがとう」


「あ、俺は、ボジーン男爵家の長男でランス十四歳だ。今年で三度目の受験だからわからない事があったら聞いてくれて良いぜ?」


「僕はリュー、ランドマーク男爵家の三男で十二歳。こちらが従者で一緒に試験を受けるリーンだよ」


「ランドマーク男爵?この辺りでは聞かない名だな。地方出身かい?」


「そんなところだよ。スゴエラ侯爵の元与力だから、知らなくて当然だよ」


「ああ、スゴエラ新侯爵か!先の大戦で活躍して勇名を馳せて、王国南東部で最大勢力を誇るところだよな。それにしても君の家は凄そうだな」


「え?」


「正直な話、従者にも受験させるレベルの男爵家なんてそういないって。ましてや、誇り高きエルフが、男爵の三男の従者って聞いた事ないぜ?俺なんか長男だから三年連続受験させて貰ってるけど、いい加減、合格できないと家がやばいんだよ。このままだと食後のデザートが無くなりそうだ」


「そうなんだね。うちも数年前まではヤバかったからその気持ち、わかるな……」


 リューはこのランスという少年に同感した。


「そうなのか?」


「うん。おかずを一品増やす為に4歳の頃から森で獣を狩ったり、食べられそうな草を摘んだりしてたよ」


「なんだよその、俺以上の貧乏エピソード!」


 ランスは、リューに親近感がわいた。

 リューも同じで、二人は合格前から意気投合するのだった。


「どうでもいいけど、そろそろ試験会場にいかない?」


 リーンが蚊帳の外になっていたので、盛り上がる二人に水を差した。


「そうだった!試験に合格しないと全て水の泡だからね。じゃあ、行こう!」


 リューはリーンに答えるとランスを含めて慌てて試験会場に向かうのであった。

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