第91話 ランドマークビル(仮)ですが何か?
その日の内に、新しい建物が作られた。
リューが鉄筋を内部に仕込んでの丈夫な作りの5階建てだ。
この近辺では一番高い、前世で言うところのビルの様な建物になった。
1階の天井は高くして、敷地内に続く出入り口が脇にある。
馬車でも通過できる広さと高さだ。
その1階は敷地の奥に馬車を止められる様に駐馬車場を作り、それ以外は広いスペースを確保した貸店舗にし、二階も数店舗お店が出来る様に広く区切った。
三~五階はランドマーク家のプライベート空間という事にした。
あとで、また、変更するかもしれないが……。
あとは、職人達を入れて、細かいところを作って貰う事になる。
セバスチャンに大まかな事を説明すると、
「わかりました」
と、一言頷いてリューの『次元回廊』で館に帰って行った。
もう、遅いので、セバスチャンと職人達を運ぶのは明日以降にする事にした。
日が落ち、外は街灯が灯りだした。
リューとリーンも宿屋に戻って食事にしようと帰ると、母セシルと妹のハンナ、そして、お酒の入った父ファーザが戻っていた。
父ファーザが少々酔っていた為、母セシルに軽く説教されていた。
ただ、娘のハンナがいる前なので、やんわりとだった。
なので館に送った後、どうなるかはリューでも何となく想像できたが、ここは触れずにおく。
だって巻き込まれたくない!
父ファーザがリューに助けを求めるような視線を送ってきたが、リューは気づかないふりをして『次元回廊』を閉じるのであった。
「ファーザ君が、リューにずっと何かアイコンタクトしてきてたわよ?」
リーンが、不思議そうに指摘した。
「リーン。あれは夫婦の問題だから、気づかなくていいんだよ?」
夫婦喧嘩は犬も食わない。
リーンがその場で指摘しなくて良かったと思うリューであった。
あと数日で、受験だが、翌日も朝から『次元回廊』で、ランドマーク領の自室に戻ると、扉の向こうにはセバスチャンと職人様ご一行が待機していた。
「リュー坊ちゃんの部屋の改装じゃないんだよな?」
「王都に行くのにリュー坊ちゃんの部屋に行くのがいまいちわからねぇな」
「ともかく俺達は任された仕事やるだけだべ!」
職人達が扉の向こうでわいわい騒いでいるので、扉を開けて迎え入れると職人達の持ち込んだ材料や作業道具を全てマジック収納に入れて、一人一人『次元回廊』で王都まで連れて行った。
運んだ宿屋側は、リュー達と泊まる部屋から、次々に人が出てくるので軽く混乱する事態になった。
上の階から知らない男達が次から次に降りてくるのだ、他のお客たちも驚いていた。
「これが、リュー坊ちゃんの力か!スゲーな!」
「本当に一瞬だな!」
「こりゃたまげたべ!」
職人達は口々に感想を漏らすと宿屋の表に出ていく。
「一体、あの部屋で何が起きてるのやら……」
女将はここ数日、宿屋で一番良い部屋が一番謎だらけの部屋に変わっていたのだから、軽く混乱するのであった。
セバスチャンがもちろん迷惑料という事でお金の入った革袋を女将に渡すのだが中身を見て女将は謎について一切触れない事にするのだった。
リューはこの日も、ランドマークビル(仮)に、セバスチャンの先導で職人達を案内した。
現場に到着すると、すぐリューに荷物を出して貰い、作業に移る。
先程まで、王都の光景に驚いて観光気分でキョロキョロしていたのが嘘の様だ。
流石職人というところだろう。
木材を切る音、トンカチで釘を打つ音、材木を持ち上げる掛け声と、活気に溢れだした。
通行人もこれには興味を持った。
何しろ、昨日まであった建物が無くなり、すぐ、違う建物が建っているのだ。
まして、地元住民にしたら訳あり物件として有名だった土地に長い事聞く事が無かった活気ある作業音が鳴り響いている。
覗かずにはいられなかった。
この事は、売りつけた悪徳業者の耳にも入ったらしく、半信半疑で様子を見に来た。
すぐに、セバスチャンがこの悪徳業者に気づくと対応する。
「何の御用ですか?」
「そんな馬鹿な!…いや、これは一体どういうことだ!?」
「どうとは?仰ってる事の意味が理解出来ないのですが?」
「どうやってわずかな時間で建物を!?それに強力な呪いで人が入るのも大変なはずなのにどうしてだ!」
「それをわかって売ったのを認めるわけですね」
「あ、いや……」
「どちらにせよ、もう、契約してうちのものなので、とやかく言われる覚えはありません。地方貴族とはいえ、貴族を相手に悪質な商売をしようとした事は許されない行為ですが、我が主は大目にみるそうです。良かったですね」
セバスチャンは悪徳業者を静かにギロッと睨みつけた。
歴戦の強者であるセバスチャンの睨みである。
悪徳業者は「ひいっ!ごめんなさい!」と、悲鳴を上げると逃げていくのであった。
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