第90話 訳あり物件ですが何か?

 翌日の昼過ぎ。


 セバスチャンが、好立地の物件を見つけてきたのだが、これが問題だった。

 築50年の石造りの頑丈な建物。

 改装、建て直し自由、敷地面積も広く、価格も王都にしてはお手頃価格。


「さっき売りに出す事になったので今のタイミングを逃すと次のお客さんが99%買うと思いますよ。」


 の売り文句にセバスチャンは、その建物の外装を確認後悩んでいた。


 するとその場に次のお客が来て、買わないならうちが買うと言い出した。


 聞けば聞くほど、これは仕込みだろう。


 セバスチャンは決断の時とこれに慌てて契約したのだが、これが実は築150年で、「1」の部分が前の字に重なって見づらくなっていた。

 さらに、外装こそ綺麗に見えたが内装はボロボロ、建て直すにも周囲にも建物がある為、撤去に莫大な費用がかかる。

 さらには、いわくつき物件で、その土地自体に強い呪いがかかっている事がリューとリーンが確認の為に同行した時に、判明した。


 完全に悪徳業者の手口だ。

 内装は100歩譲っていいにしても築150年では建物自体の耐久性が怪しいし、何より呪いが大問題だ。

 敷地内での作業自体が出来ないし、ずっといれば、呪いがかかる可能性もある。

 となると、放置するか売るしかない。

 だが、いわくつき物件なので早々に売れるわけでもない。


 所有してる間、維持費だけがかかり、損しかないのでどうにかして安くでも売るしかないのだが、そこをまた、悪徳業者が買い叩いて二束三文でせしめ、また、同じ事を繰り返すというのがこれまでの手口だろうと思えた。


 残念ながら契約書にも怪しいが不備という不備は無く、業者にいまさら文句を言っても、逆に衛兵を呼ばれるだけだろう。


「すみません、リュー坊ちゃん…。完全に私のミスです…。」


 セバスチャンが責任を感じて明らかに落ち込んでいて、そんな姿を見るのはリューは初めてだった。


「いや、セバスチャン。良い買い物をしたよ。こんな主要な通りから近い好立地の場所、普通この価格では手に入らないよ。」


 リューは建物を一目見て、頷いた。


「ですが、それは呪いのせいですから…。」


「ふふふ…!セバスチャン、うちには凄い妹がいるのを忘れてないかい?」


「ハンナお嬢様ですか?…あ!」


「気づいたね?あ、その前に、この土地の上物うわものはいらないね。」


 リューはそう言うと大きな石造りの3階建ての建物をマジック収納に収納してみせた。


 その道路沿いを歩いていた通行人達が視界から突如消えた建物を二度見して、その場所にあったはずの物を確認したが、完全に消えている事に「!?」となり、目をこすったりして確認していたが、リューはお構いなしであった。


「これで後はハンナを呼んで来るだけだね。」


 そう言うとリューは宿屋に戻り、早速、『次元回廊』でランドマーク領に移動すると、ハンナの授業をしていた母セシルに今回の件を説明した。


「それなら、私でも呪いは解けるかもしれないけど…、今回はハンナの方が確実かもしれないわね。」


 というと、ハンナの授業を中断して王都に向かう事にした。



 セバスチャンが買った土地にリューの案内で母セシルと妹のハンナが訪れた。


「確かに、これは強い呪いがかかってるわね…。私でも解呪するのは大変そうだけど…、ハンナちょっといい?」


 母セシルがリーンとしゃべっていたハンナを呼ぶ。


「なーに、お母さん?」


「以前教えて上げた解呪する為の魔法覚えてる?」


「うん、もちろん!このもやもやしたのを消せばいいのね?」


 どうやら、ハンナには呪いが見えてるようだ。


「ええ、そうよ。」


「わかった!じゃあ、やるね。『大浄化』!」


 ハンナが何の予備動作も無く、賢者や聖女職が特別に覚えると言われる大魔法を唱えた。


 天からまばゆい光が呪われた土地に降り注ぎ、黒い靄が地の底から根こそぎ天に引き摺られる様に昇っていく。


 呪いの元と思われる黒い影が悲鳴を上げて天に召されていくのが、治癒士の母セシル、森の神官のリーン、賢者のハンナ、そして器用貧乏で簡単な治癒持ちのリューには見えたのだった。


 セバスチャンは長年の勘で、不浄の土地が浄化された事に何となく気づいた様で、


「これで、もう、安心ですね?」


 と、母セシルに確認した。


「ええ、セバスチャンご苦労様。後はリューとリーンに建物は作らせるから、戻ったら職人を集めてこっちに連れて来る手配をして頂戴。扉や窓、屋根は職人じゃないと無理だから。」


「了解しました。」


 セバスチャンは頷くとリューと一緒に宿屋に戻って行った。


「じゃあ、ハンナ。この後は王都でお買い物しようか?」


 母セシルは娘に言うと、


「わーい!私、また、お洋服見たい!」


 とハンナは喜び、母セシルと手を繋ぐと馬車に乗り込んで裁縫通りに出かけて行くのであった。

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