第89話 王都での一日ですが何か?

『次元回廊』で自分以外の人を通せる様になった事を父ファーザに知らせると、当初の予定は大幅に変更される事になった。


 それは、リューとリーンの合否に関係なく王都進出する事だ。


 そうなると、執事のセバスチャン、父ファーザ、そしてなぜか母セシルとハンナを王都に移動させる事になった。


 ぞろぞろと宿屋の一室からランドマーク家一行が出てきた事に宿屋の女将は驚いたが、ランドマーク男爵当人を確認すると、喜んで歓迎してくれた。


「これはまず、どこか適当に家を借りてそこから出入りしないと、宿屋に迷惑をかけるな」


 と、父ファーザが言ったので執事のセバスチャンが急遽家を探す事にした。

 どちらにせよ、拠点を用意する必要があったのでこれは丁度良かった。


 母セシルと妹のハンナは宿屋を出ると二人でお買い物に出かけた。


 なるほど、それが目的だったのね……。


 苦笑いするリューであったが、王都に来るなんて滅多にない事だから、仕方がないかと納得すると領兵の護衛と共に馬車で送り出すのだった。


「お父さんはどうするの?」


 残った父ファーザにリューが聞いた。


「私は、王都にいる知人達に挨拶してくるとしよう。リューとリーンは……」


「セバスチャンが見つけてくる家を拠点化する事だね!」


「いや、待機して勉強だ。王都進出が前倒しになっても、一番大事なのは二人の受験だからな。残り時間、自分を追い込んで勉強しなさい」


 ガーン


 リューは父の正論に反論できず、リーン共々机に向かう事になるのだった。



 夕方になると、出かけていたセバスチャン、母セシルと妹ハンナが帰ってきた。


 ぞろぞろとリューの部屋に入って行ったので、宿屋の女将さんも流石に声をかけるべきかと思い、部屋をノックして室内に入らせて貰うとそこにはリューとリーンしかいなかった。


「あら?さっき来たみなさんはどこへ行ったんです?」


 女将が疑問に思うのも仕方がなかったが、正直にリューは答えた。


「あ、それならもう、家に帰りました。お騒がせしてすみません」


 リューは女将に頭を下げて謝った。


「あら、そうなのね?それならいいのよ。ランドマーク男爵はまたくるのかしら?」


 狐につままれた様子の女将であったが、


「父は挨拶回りでまだ帰って来てないので、戻ってきたらあとでまた挨拶させますね」


 と、息子のリューに言われたので恐縮した。


「あ、良いのよそこまで気を遣って貰っちゃ、宿屋の女将として失格だわ。受験まで自分の家だと思ってゆっくりしてて下さいな」


 そういうと退室する女将であった。


 父ファーザは遅くに戻ってきた。

 丁度勉強を終えてリューが寝ようとしていたところだったので少しお酒が入っている父ファーザをあっちに送り返すと早々にリューも寝るのであった。



 翌日もセバスチャンは朝一から王都にリューに連れてきて貰うと、出かけて行った。

 父ファーザは昼にまた迎えに行く事にして、リーンと一緒に勉強する事にした。


「セバスチャンは大変そうね」


 リーンが執事のセバスチャンの心配をした。


「確かに言われてみれば……。こっちは土地勘が無いから流石のセバスチャンも家探しは苦労してるのかもね」


 リーンに言われてリューも自分で答えながら、セバスチャンが一番大変なのかもしれないと思い始めた。


「今日戻ってきてまだだったら、気晴らしも兼ねて手伝って上げた方がいいかもね」


 リーンが勉強をさぼる為なのか、セバスチャンを本当に気遣ってか提案した。


「そうだね。手伝おう!」


 リューは勢いよく賛成した。

 もちろん、リューの場合はもう、勉強が嫌だったからである。


 お昼をリーンと一緒にランドマーク家の自宅に食べに戻り、また、戻るついでにファーザを王都に連れてきた。


 父ファーザは知人達に王都の情報を貰っている様だが、その為にお酒を奢るので自分も飲まざるを得ないらしい。


 という言い訳をして父ファーザはまた、出かけて行くのだった。


 忙しいセバスチャンにはこの事は黙っておこう、と思うリューであった。

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