第88話 移動できますが何か?

 部屋が決まるとリューは早速、『次元回廊』でランドマーク領の自室に戻る事にした。

 父ファーザに無事到着した事を報告する為だ。


 これまでマミーレ子爵のところに設置していた出入り口をこの宿屋に設置し直す。


「これでよしっと」


 リューはそうすると『次元回廊』に入って移動した。


 すると、脳裏に『世界の声』がした。


「『次元回廊』が限界に達しました。ゴクドーの能力『限界突破』により、限界を突破します。…限界を越えました。移動距離、移動重量の限界値が上昇しました」


 久しぶりの『世界の声』にリューは自室に到着と同時に驚いた。


「え!?という事は……。あ、その前にお父さんに報告しないと!」


 慌てて執務室に向かうと父ファーザに無地到着した事を伝えた。


「おお!もう到着したのか、予定より早いな」


 リューの報告を聞いて、ファーザは苦笑いした。


「……そうかそれは大変だったな。トーリッター伯爵はうちにも手紙が来てる。男爵風情が調子に乗るなとな」


「ああ、あの手紙の!」


 リューも思い出した。

 そういう手紙の類はスルーしていたので送り主まで覚えていなかったのだが、父ファーザは覚えていたのだ。


 ちなみに父ファーザは調子に乗った覚えが皆無だったので、


「どなたか違う男爵と間違えてませんか?」


 という返信をしてしまったので、あちらが大いにブチ切れた事は知らない。


 リューは返信の手紙を出した事は聞いていたので、それで合点した。


「あ、お父さんが煽った相手だね……」


「私が煽った?そんなわけないだろう」


 父ファーザはリューの指摘に心辺りがないという顔をした。


「ははは……。ともかく、到着した事は知らせたよ。また後で報告したい事があるから確認後また来るね。あ、お父さん、受験まで一週間近くあるから、その間、王都への進出計画進めていい?」


「馬鹿者。まずは、受験勉強だろう。リーンもいるんだ勉強を優先しなさい」


 リューは父ファーザに怒られると、素直に従う事にした。

 確かに今は優先順位を間違えてはいけない。


「はーい。じゃあ、戻るね」


 そう言うとリューは自室から王都に戻るのだった。



「あ、戻ったのね。報告してきたの?」


 王都の宿屋に戻ると、リーンがやって来ていた。

 鍵を閉めていたのに室内に入れているのは、盗賊の上位、追跡者スキルの賜物だろう。


 って、勝手に鍵開けないで!


 リューはリーンに呆れたが、本人曰く、


 声をかけても返事が無いから何か起きたと思った、らしい。


「あ、そうだ。リーン、実験に付き合って」


「実験?何するの!?」


 リーンは何をするのかわからないが、好奇心は旺盛だったので、すぐに乗り気だった。


「じゃあ、ぼくと手を繋いで『次元回廊』に入るよ」


「え?『次元回廊』って、ハンナちゃんまでしか通れないじゃない。……もしかして、何か覚えたの?」


「さっき『世界の声』がして、『限界突破』したらしいから試してみたくて」


「本当に!?やったー!成功したら、ここからランドマーク領まで行けるのね!」


 リーンは素直に喜んだ。

 移動で馬車に揺られる時間が無くなるかもしれないのだ、喜ばずにはいられないだろう。


「あ、スーゴも呼んで来よう」


 リューはそう言うとスーゴの部屋に呼びに行った。


 すぐにスーゴを連れて戻ってくると早速実験開始だ。


「じゃあ、まずは、リーンと一緒にランドマーク領に戻れるかやってみるね」


 リューがそう言うと、スーゴはそこでやっと自分が連れてこられた理由が何となくわかったという顔をした。


 リューとリーンは手を繋ぐとその場から消えた。


「おお!やっぱり坊ちゃん凄いな!」


 スーゴが1人感心していると、手を繋いだリューとリーンが戻ってきた。


「よし、成功!」


 リューは喜ぶと、


「じゃあ、今度はスーゴ」


「わかりました!」


 そう答えてリューと手を繋ぐと、今いた宿屋の一室から見覚えのある部屋に移動していた。


「……ここはリュー坊ちゃんの部屋ですね!?」


 スーゴは初めての『次元回廊』での移動体験に驚いた。

 人がやるのと自分が体験するのとではまるで違う。


「じゃあ、戻るね」


「これは便利ですね!」


「でしょ?流石に魔力をそれなりに持っていかれるのがわかるけどかなり便利だよ」


 リューはそう答えるとスーゴと手を繋いだまま王都の宿屋に戻った。


「体の大きいスーゴでも成功したから、帰りは御者や領兵のみんなも直接送るね!」


 リューは実験の成功に大喜びだった。


「数人で試さなくていいの?まだ私とスーゴの一人ずつだけよ?」


「いや、スーゴの様な大きい人で確認できればいいんだ。要は1人ずつ確実に移動出来ればいいから、一度に沢山で移動する必要はないんだよ」


 確かに、言われてみればそうだ。

 リーンとスーゴは納得するのであった。

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