第74話 家に戻りますが何か?

 ブナーン子爵の領地に向かう道すがら、森の側に馬車を止めさせるとリューはランドマーク領に『次元回廊』を使って一度戻った。


 ファーザへの報告と、マミーレ子爵からの担保として預かった宝石をランドマークの地下宝物庫に保管する為だ。


 自分のマジック収納に置いといてもいいのだが、この辺りはちゃんと約束したので責任を果たしておくべきと思ったのだ。


『次元回廊』から自室に一瞬で戻ったリューは、そのまま地下に向かったのだが、階段でたまたまメイドに出くわした。


「リュー坊ちゃんお帰りなさいま……、え!?リュー坊ちゃん!?」


 メイドはここにいないはずのリューを二度見すると、あまりの驚きによろめきそうになった。


 リューは手を差し伸べて、体を支えると、


「あ、お仕事ご苦労様。お父さんは執務室?」


 と、普段通りに聞いた。


「あ、すみません、ぼっちゃん!領主様は執務室でお仕事中です!」


 メイドは姿勢を正すと答え、お辞儀をした。


「わかった、ありがとう!」


 お礼を言うとリューはそのまま地下まで駆けおりて、宝物庫の前まで行くと扉を開け、宝石を奥の台座に丁寧に置くと、扉を閉じるとしっかり鍵をかけた。


「やっと、作った宝物庫を使う日が来たけど、まさか第一号が担保で預かった宝石とは……」


 リューは1人、苦笑いするとすぐさま、ファーザのいる執務室まで行った。


 コンコン


 リューが扉をノックすると、


「……入れ」


 と、中からファーザの声が返ってきた。


 ファーザは、メイドだと思ったのかこちらを見ずに、


「あとで、軽い食事を用意してくれ、頼む」


 と言いながら書類を書き続けていた。


「あ、お父さん。マミーレ子爵との金銭消費貸借契約書を持ってきました。後で目を通しておいて下さい」


「ああ、リューかご苦労……、リュー!?」


 ファーザは一週間前に出かけたリューが部屋にいる事に心の底から驚いた。


「ちょっと、お父さん慣れてよ」


「あ、ああ、『次元回廊』だったな……。一週間いないところに急に表れると流石に驚くな。そうか、マミーレ子爵とは無事契約したか」


「はい、担保となる王家から下賜されてという宝石を宝物庫に安置しておいたので、後で確認しておいて下さい」


「わかった、ブナーン子爵の方も頼むぞ」


 リューから書類を受け取るとこの頼もしい息子を送り出した。


「うん、じゃあ、行ってきます!」


 リューは自室に駆けて行くと、設置した『次元回廊』の出入り口から、リーン達が待つ馬車の傍の出口まで、一瞬で戻るのであった。




 リュー一行は半日後にはブナーン領入りした。


 ブナーン子爵が屋敷の前でリュー達の訪問を待っていた。


「マミーレ子爵のところで何日も足止めされて大変でしたな。マミーレ子爵はやはり、あの宝石を担保に入れるのを渋りましたか」


 ブナーン子爵は、お金を貸してくれる予定のリュー達が予定よりも遅れていたので、気になって仕方がなかった様子だった。


「……それなら、マミーレ子爵は快く担保として差し出してくれましたよ。なので、お金もちゃんとお貸ししました」


「…ほほう。あのマミーレ子爵が?私には見せる事すら憚り大切にしまっていたのですが、どんな魔法をお使いになったのですか?」


「それは、企業秘密とだけ言っておきます」


「これはこれは……、ランドマーク家の三男殿は秘密主義でおられますか、……これ以上は聞かない事にしましょう。ははは」


 ブナーン子爵は余程知りたい様だったが、我慢した様だ。


「……ちなみに、あの宝石を拝見する事はできますかな?」


「それは、ご勘弁下さい。あくまでもマミーレ子爵とうちの契約の品ですので、おいそれと他の方に見せびらかしては信用問題になりますので」


「少しだけでも駄目ですか?」


「……申し訳ありません。」


 ブナーン子爵は余程、マミーレ子爵の所有する宝石に興味がある様だ。

 今に、売ってくれと言ってきそうだ。


「……ならば仕方がありませんな。……おっと、屋敷の中に案内もせずに失礼しました。ささ、どうぞお入り下さい」


 ブナーン子爵の屋敷はマミーレ子爵の屋敷に負けない大きさと規模を誇っていた。

 外観は立派で、お金がかかっているのはわかったが、室内に入り貴賓室ではなく、執務室に案内をお願いするとブナーン子爵は当初渋ったが、リューが、自分達はお客ではないので、と伝えると折れて案内してくれた。

 屋敷の奥に執務室はあり、その動線上は手入れはあまり行き届いているとは言い難く、お金は外の者から見える範囲のみに使われているのがわかった。


 どうやら思った通り、見栄を張る事にお金を使う人物らしい。


 リューは執務室に到着するまでに、ブナーン子爵の性格を多少把握するのであった。

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