第75話 金貸しツアー2ですが何か?

 子爵の執務室は屋敷の奥にあり、その奥に行くにつれて急に手入れが行き届いてない壁や床が現れたのだが、どうも、お客が行き交う場所以外はお金をケチっている。


 貴族の典型と言えば典型だ。

 見栄を張るのが貴族だ。

 お金が無くても、借金をして見栄を張って家名に傷が付かない様にしようとする。

 古い家柄であればある程その傾向は強い。

 マミーレ子爵は、その限度を超えて生活で手一杯まで追い詰められていたから見栄さえ張れなくなっていたが、ブナーン子爵はそういう意味ではまだ余裕がある様だ。


 執務室は、扉から急に豪奢になっていた。

 室内も美術品が飾られお金をかけているのがわかる。


 本人曰く、「仕事をするには気分を高めないとはかどりませんから!ははは!」らしい。


 なるほど、渋ったのはこの美術品を見られたくなかったのか。


 リューは『鑑定』スキルで美術品を見たが、本物もいくつか混じっている。

 贋作は多分、騙されて買わされたのかもしれない、贋作なのは黙っておこう。


 リュー達は椅子に座ると領地経営についていくつか質問をして書類なども出して貰った。

 これにも、ブナーン子爵は渋ったが、お金を借りる為ならばと、提出した。


 こんこん


 メイド達がノックすると部屋に入ってきた。

 手には美術品や、貴金属類を手にしており、リューの前に置かれていく。


「今回、担保に入れて貰う為に用意したものです」


 ブナーン子爵は、貴賓室にこれらを運び込んでいたのが、リュー達に執務室に案内させられたのでこちらに持って来させたのだった。


 リューは『鑑定』で、運び込まれた物を見たが、どれもこれも、贋作、偽物、模倣品と、価値のありそうなものは「0」だった。


 どうやら、リュー達を甘くみて、一見すると派手で価値がありそうなガラクタばかり用意していた様だ。


 それに比べ、執務室にあるものは本物が多い。

 価値はわからないが、セバスチャンに聞けば、大体はわかるはずだ。


「これらは我が家の秘蔵の品ばかりでして、普段は表に出す事もはばかって宝物庫に眠らせておりました。この絵画などは聖芸術家と名高いボレルワット作の……」


「贋作ですよね」


 リューがブナーン子爵の説明を遮る様に指摘した。


「……え?」


「僕の前に積み上げられた物は全て、贋作、偽物、模倣品、模造品、一切価値が無い物ばかりですよね」


「……いやいや。この書物などは神筆と名高いメンタワイル作の……」


 ブナーン子爵は焦りながら説明を続けようとしたが、


「それも真っ赤な偽物ですよね」


 と、遮った。


「な、何をおっしゃるのですか!これらは私が人脈を駆使して収集した貴重な一品ばかりですぞ!」


「驚くくらい、全て価値が無い物ばかりですよ、ブナーン子爵。言い忘れましたが僕を騙そうとしない方がいいですよ?お金を借りようとする相手にそんなに不誠実では、信用は得られません。それは得策ではないです」


 リューは笑顔で応じたが、言った内容でブナーン子爵を青ざめさせた。


「お金を貸して貰う気が無いのであれば、僕達は帰らせて貰いますね。セバスチャン、帰る準備を」


「御意」


「ま、待って下さい!」


 リューが立ち上がり、その背後に立っていたリーンとセバスチャンが、執務室の扉を開けて待機したので、ブナーン子爵が呼び止めた。


「全て偽物だとは思ってなかったのです!本物もあるとばかり!」


「それは、偽物がある事はわかっていたという事ですね」


「あ……」


 ブナーン子爵は自分が失言した事に絶句した。


「ブナーン子爵、僕は『鑑定』スキルを持っているのでこれ以上、嘘を重ねない事をお勧めします」


 リューのその言葉にやっとブナーン子爵は自分の思惑が全てバレていた事を悟るのであった。

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