第73話 子爵領の改革ですが何か?
マミーレ子爵の所有する宝物や骨董品、絵画などはあまりなかった。
あったとしても、リューの『鑑定』スキルで確認すると、偽物、贋作、複製品、模倣品と価値が無い物しか残っていなかった。
マミーレ子爵曰く、
価値ある物はほとんど借金のかたに持っていかれた、そうだ。
だが一つ、マミーレ子爵にはマミーレ家秘蔵のお宝が残っていた。
それが、先祖が王家より下賜されたという宝石で、これだけは担保に入れる事なく守り続けたらしい。
「残念ながらマミーレ子爵。今の段階では担保になりそうなものは王家から下賜されたというこの宝石のみです」
「……そ、それは……。……それ以外でどうにかなりませんか?」
マミーレ子爵は泣きそうな顔で噴き出す汗を拭きながらリューに懇願した。
「残念ながら……。でも、あくまで担保ですので、借りたお金をちゃんと返済できれば子爵の元に戻ってきますよ」
「……情けない話ですが、今、借金しているものも返済が滞ってます……。これを失うと我がマミーレ家は私の代で終わりになってしまいます!」
マミーレ子爵はがっくりと膝をつくと、リューにすがりついた。
「落ち着いて下さい。うちは担保を取ってお金を貸すだけのつもりはありません」
「え?どういう事ですか?」
「子爵の領地は財政の健全化を図れば、まだ支払い能力はあると思っています。なのでまずはうちに借金は一本化して諸経費を削減、領地の改革で無駄を減らします。ここには数日滞在して骨子作りはしますので、それを参考にして改革を行っていって下さい。」
「そんな事までしてくれるのですか!?」
「うちは別に子爵から宝石を取り上げたいわけではありません。お金を貸すからには、ちゃんと返済プランを作って回収する、それが第一です。お互いがプラスになる貸し借りが一番なんです」
「よ、よろしくお願いします!」
マミーレ子爵は地面に額を押し付けると、救世主となるリューにすがるのであった。
「それでは、まず、他所から借りている借金の整理を始めましょう」
リューは、契約書を一通り見て、計算をし直し、すでに払い終わっていて逆に多く支払い過ぎてる過払い金は取り戻したり、残金を肩代わりしたりと、借金のランドマーク家への一本化を進めた。
この調査の段階で、不正を行っていた経理、メイド長、それに加担していた商人がいた事が発覚してマミーレ子爵よって、処罰される事になった。
マミーレ家の執事がそれに気づかなかった事を恥じて退職を願い出たが、それは止めた。
その実直さは今のマミーレ家には必要なものだ。
その執事はセバスチャンの指導の元、数日間勉強し直す事になる。
数日かけて借金の一本化を図る間、マミーレ領が旧態依然とした二度手間三度手間の複雑怪奇な仕組みが出来上がっていたので、それをスリム化、手の空いた者は他の仕事に回すなどした。
税収自体は豊かな土地なので十分のはずだが、長い間の慣習や仕組みの複雑化、そして、不正などでそれは無駄になっていた。
数日の間でリューが気づくのだから、もっと徹底して調べれば幾らでも出てくるだろう。
あとは、セバスチャンがこちらの執事に教え込んでいるので、任せる事になる。
幸い、マミーレ子爵自身は贅沢三昧をしていたわけでもなく、ご先祖さまから続く借金や、仕組みなどが不正の温床になり、気づかない内に搾取される側になっていただけだ。
執事も実直な人物なようだし、ある程度建て直して、道を示せば大丈夫だろう。
「それでは、宝石は担保としてお預かりします」
マミーレ子爵は、汗をぐっしょり掻きながら宝石の入ったケースをリューに渡す。
「これは、すぐ、ランドマーク家の宝物庫に保管しますのでご安心ください。くれぐれも返済を怠らず、過度な贅沢は慎んで下さいね」
リューは宝石を受け取ると、念を押した。
「この度はありがとうございました。我が領、我がマミーレ家は救われました。ありがとうございます。お借りしたお金は返済を怠らず、完済してみせます」
マミーレ子爵と執事は、そう誓うと、深々と頭を下げた。
「感謝には及びません。お互いの利益になる事ですから」
リューは答えると馬車に乗り込み、次のブナーン子爵領に向かうのであった。
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