第72話 金貸しツアーですが何か?

 ブナーン子爵達の査定の為に、リューとセバスチャンが派遣される事になった。

 リューはまだ、初歩とは言え『鑑定』のスキル持ちだ。

 物の鑑定に関しては名前がわかる程度で価値はわからないのだが、贋物はすぐわかる。

 リューが名前を伝え、セバスチャンがその膨大な知識から担保に見合う物を判断すればいい。

 これなら、騙される事はないはずだ。


 もちろん、リューが行くところにはリーンが付いて来る。

 本当は連れて行かずに帰りは『次元回廊』ですぐ帰るつもりでいたが、それは出来なさそうだ。


 ブナーン子爵達は一日滞在後、帰路に就いた。

 リュー達も馬車を出してそれに同行する。


 その道すがら、ブナーン子爵とマミーレ子爵はランドマーク家の特別製の馬車に強い関心を示していた。


 特にブナーン子爵はこの特注の馬車の価格を聞いて、


「……実に興味深い!」


 と、買う気満々の様子で、途中の宿屋でセバスチャンを相手に優先的に買えないか、割引は可能か、デザインは変える事が出来るのかなど交渉してきた。


 まだ、子供のリューを責任者と思っていない様だったが、セバスチャンがきっぱりと、


「私には裁量権はありません」


 と断った。



 断られたブナーン子爵は一緒に連れているエルフの娘の美しさに目を奪われ、子供のリューには目もくれていなかった。


 それにいくら今、勢いがあるランドマーク男爵とはいえ、男爵の三男は普通、ごく潰しも良いところだ。

 三男は成人したら、自分の食い扶持を稼ぐ為に家から追い出される未来しかないので、力は全くないのが普通だ。


 ましてやまだ子供とあっては、ブナーン子爵でなくても、相手にしないところだろう。


 だが、ランドマーク家の執事が、リューというこの子供に裁量権があると言う。

 どうやら本当の様だ。

 子爵である自分が、男爵のそれも三男のご機嫌を伺って値切ったり、お金を借りる為に、気を遣わなくてはいけないのは屈辱的だったが相手は子供だ。


 馬車の値切り交渉も、借金も自分が有利に交渉できそうだ。


 ブナーン子爵は完全にリューを甘くみていた。


 実際、馬車の値切り交渉も優先的に購入できる契約を結べたので、相手はやはり子供、楽勝だと高を括り始めていた。


 リューにしてみると、値下げ自体想定の範囲内で、購入自体も優先的に買えると思わせただけであった。


 顧客を満足させれれば良かったリューは、このブナーン子爵をご機嫌にさせただけだったのだが、当人は勘違いしていた。


 そんなリューも意識しない前哨戦が行われながら旅程は進んだ。


 リューにはスゴエラの街への旅以来の片道5日間の長期の旅行になるのだったが、同行者が借金の申し入れをしてきたブナーン子爵とマミーレ子爵という暑苦しい二人だったので嬉しいものではなかった。


 リーンも同様で、宿屋ではリューにブナーン子爵とマミーレ子爵が付き纏っていたので、一緒にいるリーンにも厭らしい視線を向けられウンザリしていたが、幸い一日の大半が移動であり、馬車が別だったのが救いだった。


「あの二人、途中からリューへのゴマすりが酷くなったわね。私への厭らしい視線も遠慮なくなってきたし」


 リーンが馬車内で、不満を漏らした。


「あちらもお金を借りるのに必死なんだろうけど、ブナーン子爵は確かにリーンを見過ぎだよね」


 リューもブナーン子爵には呆れて、リーンに同情した。


「あんな奴に本当にお金貸すの?」


「それが、お父さんの決定でもあるし、今後、こういう機会は増えると思うから、しっかり見定めて今後に繋がる結果を残そう!」


「「「おー!」」」


 リューにリーン、セバスチャンの三人は馬車内で一致団結するのだった。



 リュー一行は、まずはブナーン子爵の領地の手前にあるマミーレ子爵の領地に到着した。


 ブナーン子爵は、先に自領に戻って歓迎の準備をするとリューに伝えると先に戻る事になった。


 マミーレ子爵はブナーン子爵がいなくなると、一気に不安になったのか屋敷までの案内の間、汗を拭くシーンが多くなった。

 元々太っている事もあるが、緊張しているのは見てわかった。


 到着すると、屋敷は古いが大きくて立派だった、だが所々修繕が必要そうな部分があるのは見てわかった。


 リューは一帯を観察しつつ、まずはマミーレ子爵の執務室に通され、資産について確認したが、予想通り借金まみれだった。

 領内の商人からはもちろん、他の貴族からも借りていた。


「……とりあえず、担保になりそうなものを見て回りましょう」


 リューの提案で、マミーレ子爵は汗を拭きながら屋敷内を案内するのであった。

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