第71話 ただでは貸しませんが何か?
ファーザやリューにしたら、他の赤の他人の貴族同様、ブナーン子爵の借金の申し込みは無視しても良かったが、子供がタウロの友人である以上、将来は関わりを深める可能性は大きい。
「いつもの内容で返信すれば、怖気づいて軽はずみな借金は踏み止まるんじゃないかな?」
リューの提案で、ファーザは連帯保証人や担保など契約書にしますよ?と、気軽に借りれない雰囲気の内容をしたためて返信する事にした。
十日後。
ランドマーク家にはブナーン子爵と、その連れのマミーレ子爵が満面の笑みで訪れていた。
(リュー!本当に来てしまったぞ!)
ファーザが貴賓室に二人を通しながら、横を歩くリューに耳打ちした。
これにはリューも内心驚いていた。
ブナーン子爵の領地まで往復八日かかる。
つまり返信の手紙を貰って二日でマミーレ子爵という連帯保証人を用意してやってきたのだ。
マミーレ子爵は、ブナーン子爵と領地が隣接する貴族というのはわかっている。
執事のセバスチャンに聞くと、マミーレ子爵は南部の古参の貴族の一つで、子爵にしては広い領地を持っているらしい。
だが、古い割にそれ以外の話は聞かないらしくセバスチャンの情報網でもそれが限界だった。
リューの前世で培った観察眼では、連れのマミーレ子爵は、全くお金があるとは思えなかった。
袖を通した派手な服はよく見るとデザインが古く、タンスの奥から引っ張り出してきたものと思われた。
その服装から古参の貴族らしく昔は栄華を極めた時期があったのだろうが、今は鳴かず飛ばずの印象だった。
これはお金を貸しても回収できない恐れがある。
一方、ブナーン子爵の服装はまだ、新調して間がないものに見えたが、こちらも派手で無駄にフリフリが、襟や袖に付いていて正直ダサい。
足元を見ると靴はそれなりだが、擦れた傷が数か所あって手入れは行き届いていなかった。
これにはリューは前世の経験上、最低評価を下した。
せめて古くても手入れが行き届いてれば、誠実さを見て取っただろうが、この人にはそれはないと見極めたのだ。
リューはお金を貸す相手を見てきた結果、靴に性格が出ると思っていた。
マミーレ子爵に関しては見るまでも無かったが……。
このブナーン子爵には貸しても返済する誠実性はないだろうし、マミーレ子爵には返せる経済力がない。
だが、ブナーン子爵の子息には兄タウロの言う通りなら、貸す価値がある。
将来、立派な人物になる可能性があるからだ。
マミーレ子爵はその名前と、広い領地を担保に出来るなら、貸す見込みがあるかもしれない。
二人は貴賓室に通されると、ランドマーク男爵のここ最近の快進撃を讃え始めた。
褒めて気持ちよくさせて借りる作戦の様だ。
だが、ファーザはそういうのを一番苦手としていたので、不機嫌になっていった。
ブナーン子爵達は、ファーザの横に座ってこっちを見ている子供は一切気にかけていなかったが、ファーザの雲行きが怪しいと気づいたのか、話をリューに振った。
「ご子息ですか?聡明そうな子だ。今日、君はお手伝いかな?」
冗談のつもりで聞いたのだろうがリューが、
「はい、お二人の査定をさせて頂いています」
と、返してきたので、二人はギョッとして目を見合わせた。
「……査定ですか?」
ファーザに真意を確認する様にチラッと視線を送った。
「……うちの息子に今回の事は一任しています。どうだ、リュー?」
ブナーン子爵とマミーレ子爵はまた目を見合わせると、泡を食った顔をしてリューの返答を待つ。
「お二人とも、お互いが連帯保証人になるつもりでしょうが、不足と見ました。担保も必要と判断しますので、お二人の領内で査定して担保を決める必要があると思います。」
「リューがそう言うなら、その様にしよう」
「え?本当に子供に判断させるのですか、ランドマーク男爵!?」
ブナーン子爵が慌てて質問した。
「うちの子に不満がおありですか、ブナーン子爵殿」
「い、いや……」
「それでは、うちの者をお二人に同行させますので、担保が決まったら望まれていた額をお貸しします」
「わ、わかりました。担保さえ納めれば貸して頂けるのですね?」
ブナーン子爵は念を押すと、ファーザに代わってリューが頷くと、二人は思わぬ展開にただただ、顔をしかめるのであった。
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