第70話 手紙が多いですが何か?

 コヒン豆栽培や、水飴、手押し車、リアカーに新型馬車等、そしてチョコと、ランドマーク男爵家の王国南東部での知名度は大きく高まっている。


 その割には、当人達はさほどその意識がなかったが、最近になって面識のない他所の貴族から面会希望の手紙や使者が訪れる様になってきた。


 内容は様々で、以前からあった派閥への勧誘、借金の申し入れや、なぜか同情を誘う身の上話、懇意にして欲しいというお願い、上級貴族による圧力、特許の売却要求、共同生産の為の誘致など様々だが、ほとんどが自己利益の為にランドマーク家を利用する気満々の内容だった。


「……一気に増えたな」


 ファーザがため息をつくと、手紙の山を前にリューを見た。


「今だけだよお父さん。スゴエラ侯爵派閥である事をアピールして上級貴族の無茶は受け流し、借金の申し込みは保証人を用意させて担保をちゃんと取りそれを契約書にすると言えば、ほとんどは怖気づいて借りに来ないよ。同情を誘う人は特徴として『自分の利益を第一にして他人の損失には無頓着』と危険だから基本無視、特許の売却要求は論外だよ」


「そうなのか?この手紙の伯爵なんか、不幸続きで可哀想なんだが……」


「お父さん、初対面の人物がわざわざ同情を誘う内容の手紙とか、騙す為以外にないから。詐欺の手口に多いから気をつけてね?」


「言われてみれば、私が赤の他人を同情する理由がないな」


 相変わらず、お父さん良い人過ぎる……。


 リューは心配になりながら、アドバイスをした。


「ほとんどは、無視でいいものだから、一度目を通したら二度目からは読む必要の無いものだと思うよ」


 前世で言うところの、詐欺メールや、ダイレクトメールの類だ。


 前世の組の下部組織がよくやっていたものだ。


 そういうのは相手にしてたら切りがない。


「だが、誘致の件は良い話だと思わないか?」


 ファーザが、領内の生産状況を気にかけて言った。


「その事なんだけど、うちと同じく新興貴族で信用できそうな、利益を共有できそうな人がいるんだけど」


「おお!それはいいじゃないか!誰だ?」


「ベイブリッジ伯爵だよ。タウロお兄ちゃんとエリス嬢の仲も良いから、今後、付き合いは長くなりそうだし、何より信用できるよね」


「……確かに。伯爵も新興貴族で資金繰りも大変だろうし、今後の事を考えると繋がりを強める事が出来ていいかもしれない……」


「家同士の繋がりが強まれば、二人の仲の進展にも繋がるよね」


「そうだな。タウロの幸せにも繋がるなら、それが一番だ。よし、こちらから手紙を書いてお願いしてみよう」



 早速ファーザは、ベイブリッジ伯爵に「共同生産誘致の提案」の手紙を送った。

 格が上なので、あくまでもお願いだ。


 返事はすぐ帰ってきた。

 内容は快諾するもので、感謝の言葉まで綴られていた。


 後日、ベイブリッジ伯爵に権限を一任された腹心がランドマーク家に訪れると、細かい交渉をする事になった。

 コヒン豆の栽培については、先が長い事から一旦保留されたが、今現在、生産が追いついていない新型馬車や、手押し車、リヤカーなどの製造を共同で行う事が締結された。


 この両家の結びつきにより、ベイブリッジ伯爵家は領民への仕事の斡旋と利益を、ランドマーク家は弱点であった生産力の強化と、今後の長男タウロの将来についての見通しが明るくなったのであった。



 執務室を訪れたリューは、ファーザの元にいつもの如く届く手紙の中に気になる宛名が目についた。


 ブナーン子爵……、どこかで聞いた様な……。


「あ、お父さん、ブナーン子爵って、南部の貴族の方ですか?」


「うん?ああ、そうだな。そういえば、そういう貴族が南部にいるが、私もなぜ知っているのか覚えてないな……」


 ファーザはリューに答えながら、自分がなぜ接点のない貴族を知っているのか思い出せなかった。


 リューも同じだったが、記憶を遡っていくとタウロの学友でライバル関係にあるという貴族がブナーン子爵の子息だった気がする事を思い出した。(※22話参照)


「タウロお兄ちゃんと友人だったかも……」


「……うん?……ああ!タウロの手紙に、書いてあった気がするな!」


 リューの指摘にファーザも思い出した。


「この手紙、読んでみていい?」


 リューはファーザの確認を取ると中身を見てみた。


 その内容は、息子同士が学校で仲良くしている事などが前置きで書かれていたが、つまるところ、借金の申し込みだった。


 どうやら子供の交友関係をだしにお金を借りようと思っている様だ。


 兄タウロの話ではブナーン子爵の息子は負けん気が強いが潔く、清々しい気性の持ち主と聞いている。


 手紙の内容からするに、息子には内緒の様だったので、親の方は息子の様に立派とは言い難い人物なのかもしれない。


 ファーザとリューは顔を見合わせるとどうするか悩むのだった。

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