第69話 ついに販売ですが何か?
カカオンの実の収穫時期が来た。
魔境の森の村の民にとっては、待望の大規模収穫だった。
この為に、村を移転、もしくは移住してきたのだ。
未だ一から育てる為の研究が続けられているが、まだ、数年はかかる状況だ、だが元から生えているカカオンの木から収穫するだけでも結構な量の実が集まっている。
村人達にとってその量の多さがひとまずの安心に繋がった。
このカカオンがあの甘くてほろ苦い『チョコ』になるのだから、やる気も出るというものだった。
ついでにバナーナの実も収穫する。
こちらは収穫した熟したものは領内で販売するのが第一で、領外に出荷するものは、まだ実が青い実のものを収穫して、運んでいるうちに実が熟すとリュー坊ちゃんが教えてくれた。
これは、加工しなくても甘くて美味しく、村人達も食事やおやつに食べている。
坊ちゃんが言うには、「エイヨウカ」が高いから体に良いそうだ。
「エイヨウカ」の意味は分からないが、体に良いという事は、収穫するこちらとしては、売り言葉として最高だった。
自信を持って売る事が出来る。
村人達の表情が明るい事がリューにとって何よりだった。
さらにこのカカオンの実の収穫は年に二回の予定だったが、村人が観察したところによると三回収穫できそうだと言うのだ。
実が落ちて腐ったものが沢山あったので、そう思ったらしい。
前世と違って、カカオンの実がそういうものなのか、この魔境の森が特殊なのかはわからないが、どうも周期が違う様だ。
これは、嬉しい誤算かもしれない。
年間の収穫量が増える事は大きい。
思っていたより『チョコ』を多く市場に出せそうだった。
カカオンの実を加工し、『チョコ』にする工程も、領都内の加工場で研究がされる事になった。
リューの記憶では、温めた『チョコ』をヘラで捏ねると食感が滑らかになると、前世のTVで見た覚えがあったので、それを伝えると『料理』のスキル持ちの責任者は興味を持ち、研究していいですか?と、聞かれたからだ。
おかげで祭りの時に出した『チョコバナーナ』よりも、品質の良いものが加工される事になる。
ランドマーク家の新しい執務室。
そこに、ファーザと、リュー、リーンの他に1人の商人が訪れていた。
「こ、これは……!昨年の豊穣祭で出されたものより美味しいですね!」
『チョコ』の契約をランドマーク家から取り付けた商人が、リューから出された”試作品”を口にすると絶賛した。
「こんな美味しいもの初めてです!絶対、売れますよ!値段が高くてもお金を出す貴族はいくらでもいますよ!」
商人は興奮気味に熱く語った。
「それでは、これを商品化しますね。製品版は『チョコ』にランドマーク家の剣が交差する月桂樹の家紋入りの型で型を取る予定です」
リューが、ファーザと商人の二人に確認を取る。
「はい!お願いします!いいですね、ランドマークブランドは有名になってきてますから、その名も使って大々的に宣伝させて貰います!販売はお任せ下さい!」
「それでは、お願いします」
ファーザが商人と握手を交わすと、リューもそれに加わり握手を交わす。
これが世間を席巻する『チョコ』の第一歩である。
『コーヒー』のランドマークブランドが、それに合う『チョコ』というお菓子を出した事は、流行にうるさい貴族や金持ちの間で情報として、すぐに広まった。
『チョコ』という不思議な名前の響きにランドマークブランドのファンの期待感は増し、いち早く入手して味わった者は羨望の的だった。
食べた者はもちろん、これまで食べた事が無い味わいに酔い、集まる人々の前で詩的な表現で感想を述べる。
それを聞いた人々は、期待に胸を膨らませ、入手経路を聞き出すのに必死になった。
金に糸目はつけないこの人々により『チョコ』の値段は高騰するのだが、売れ行きが落ちる事はなかった。
需要が圧倒的に勝っていたのだ。
さらに拍車をかけたきっかけのひとつに、ランドマークブランドのファンの、とある貴族が発した一言があった。
「『チョコ』は『コーヒー』の最高のパートナー」
このキャッチフレーズが魔法の言葉の様に広まり、『コーヒー』ファンの間で知名度を一気に高め、『コーヒー』と共に高値で取引される事になるのだった。
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