第68話 次元回廊ですが何か?

 リューは気を取り直し、実験を続ける事にした。


 母セシルの言う通り、出口が無いと次元回廊に入っても出ようがない。

 まずは出口を作ろう。


「次元回廊出入り口作成……!」


 リューが唱えると、空間に次元の裂け目が出来た。


 ただ、母セシルやリーン、ハンナには全く見えないらしく、「何もおきないわよ?」と、ぼやいた。


 リューはそこから少し距離を取ると、


「次元回廊……!」


 と唱えて次元回廊に足を踏みいれた。


 すると、そのトンネルの様な内部の少し先に出口が見えた。


「これで出口から出れば……っと」


 リューは出口から飛び出すと、母セシル、リーン、ハンナが歓声を上げた。


「本当にリューが一瞬で移動したわ!」


「リュー凄いわ!成功よ!」


「お兄ちゃん凄い!」


 三人には一瞬で移動した様に見えるという事は、次元回廊の中は時間が進んでいないという事だろう。


 文字通り、一瞬で移動できる事が証明されたのだ。


 そこからは細かい実験に移行した。


 まずは、他の人も一緒に移動できるかどうか。


 これは、次元回廊の出入り口が三人には見えないので、出入りのしようが無い。

 試しに手を繋いでリーンを次元回廊に引っ張り込む事ができるか試してみた。


「下半身が何かに引っ掛かった様な感覚があって先に進めないわ!」


 リューから見るとリーンの上半身は次元回廊に入ってる様に見えるのだが、その先がリーンが言う様に引っ掛かる感覚があって次元回廊に引っ張り込めない。


「上半身だけしか入らないなぁ……、どういう事だろう?」


 リューは考え込んだが、試しに今度はハンナの手を引っ張って次元回廊内に入ってみた。


 するとハンナはスムーズに入れた。


 出口から二人は手を繋いだ姿のまま、一瞬で出てきたのだ。


「ハンナは入れて、リーンは上半身だけ?」


 母セシルが首を傾げた。


「もしかしたら限界重量があるのかも」


 リューは思いついたのか、厨房に行くとリゴーの実が入った大きな袋を持って戻ってきた。


 そして、その袋を抱きかかえたまま次元回廊に入ると数個のリゴーの実がその場に落ちて、リューは一瞬でもうひとつの出口から出てきた。


「……なるほどね。今、リューが手にしているリゴーの実の量が、限界重量という事になるのね」


 母セシルは理解した。

 ハンナは丁度ギリギリの限界重量内だったので次元回廊内に入ったのだろう。

 という事は、ほとんどリュー以外の者は次元回廊内を移動する事は出来ないという事だ。


 リューは次に出口を複数作れないか試してみた。


 この答えはすぐわかった。


 他所に出口を作れば、最初に作った出口は消えてしまったのだ。


 つまり、往復できるところは一か所のみ、だから出口を設置する必要があるので行った事がある場所にしかいけない、便利は便利だがリーンやハンナを連れて移動する事が多いリューにとって、あんまり使い勝手がよいものではない。


 物の持ち運びはマジック収納に入れて次元回廊に入ればいいから問題ないけど、この次元回廊、チート能力だと思ったけど、今の自分にとっては制限があり過ぎだ。


 リューはどうしたものかと考え込んだ。


「うーん……。伝承では勇者一行が故郷から遥か離れた王都まで一瞬で移動した事になってるんだけどおかしいわね……」


 母セシルが、疑問を口にした。


「……それが本当なら……、この能力、熟練度がある可能性があるね!」


 使い勝手が悪い能力と思ったが、希望が見えるリューだった。




 それからは、出来る範囲で次元回廊を積極的に使う様にした。


 リューとリーン、ハンナの三人で基本領内を行動する事に変わりはないが、行く先で魔境の森に行く時間になると、一旦ハンナを家まで送り届けないといけないのだが、それを次元回廊で行った。


 出入り口を屋敷に設定しているので、まさに一瞬で送る事が出来て、一旦引き返す事なくそのまま魔境の森に行ける様になった。


 これだけでも、かなり時間短縮になる。


 魔境の森にいるカミーザから屋敷にいるファーザに伝言するのにもあっという間だった。


 リューがいる時に限られるが、魔境の森で何かあった時、リューからファーザに緊急連絡がすぐ出来るのだ。


 強力な魔物が現れる事も稀にあったので、ファーザに連絡して、ギルドに緊急クエストを依頼し、現場まで来てもらうのも時間はこれまでの半分に短縮できた。


 次元回廊は限定的だが徐々に使い方を工夫して活用するリューであった。

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