第51話 学校を作るのですが何か?

 妹ハンナの件は、リーンとリューは一切口外しない事を母セシルと固く約束したが、二人もうっかり漏らす事を恐れた為、うっかりしても漏らさずに済むよう魔法の契約を結ぶ事にした。


 魔法契約は、契約者が解除しない限り、切れる事は無い。

 その代わり両者の同意が無いと結べないが、そこは問題なかった。


 リューは散々兄達の天才ぶりを見てきたが、妹がそれを上回るであろう真の天才だという事を知った日であった。




 リューは執務室に赴いて、ファーザに1つの提案をしていた。


「学校を作る?」


 ファーザは首をかしげる。

 学校は隣領のスゴエラ侯爵の元に大きなものがある。

 リューの提案がいまいち理解できないファーザだった。


「はい、と言っても、お父さんが想像しているものではなく、読み書きや簡単な計算を教える学校です。残念ながら領民の識字率はとても低いです。国内的にも低いですが、それだけに読み書きできる者は重宝されます。領民が読み書きできれば、領内の発展にも繋がると思うんです」


「……なるほど。確かに、読み書きできると契約時に騙されたり、他所の商人から計算で欺かれたりする被害も無くなるし、領民が知識を得て豊かになる事は悪い事じゃないな」


「はい。学んでもっと勉強したい者は、それこそスゴエラの街の学校に行く者も現れるでしょうし、そこで学んだ者が領内に戻って発展に貢献する者も現れると思うんです」


「よし、学校を作ろう。教師役は知識人でリューの鑑定もした事があるサイテン先生や、読み書きができる隠居した者達を雇えば、なんとかなるだろう」


 懐かしい名前を聞いた。

 サイテン先生と言えば王都にも顔見知りが多いという知識人だが、自分の『ゴクドー』スキルの鑑定以来、接点が無かった。

 今は何をしているのだろう?


 教師の依頼も兼ねて挨拶に行ってみよう、と思うリューであった。




 ランドマークの街の外れにサイテンの家はある。

 4年ぶりなのでサイテンの顔を思い出す事ができなかったが、丁度、家から一人の男性が出てきた。


 その顔を見てやっと、記憶の底からその男性がサイテンだと思いだした。



 手には如雨露を持っているので庭の菜園に水を上げようとしている様だ。


「あれ?エルフと少年……。ああ、リュー坊ちゃんですね」


 サイテンはリュー達に気づくと見聞きした事を思い出し、リューに辿り着いた様だ。


「約四年ぶりですね。大きくなられたのでわかりませんでした。ははは」


 サイテンは笑顔で二人を歓迎すると室内に案内した。


「あ、そうだ。久しぶりにリュー坊ちゃんの『鑑定』をさせて貰ってもいいですか?」


 二人が席に着くとサイテンが先に聞いてきた。


「え、あ、……どうぞ。」


 リューはサイテンのマイペースさに困惑した。


「……おお!未知のスキル『ゴクドー』には、限界突破に経験値増大が!?これは凄い。弱点になりそうな『器用貧乏』を、『ゴクドー』スキルが最高のものにしてくれているとは!それにしても、リュー坊ちゃんは努力を重ねられていますね。経験値増大が、あるにしてもこれ程のステータス、王都の学園の生徒にもいないでしょうね」


 サイテンに『鑑定』スキルで丸裸にされて恥ずかしいリューだったが、最後に褒められたので嬉しかった。


「これは、論文を書かなくては!リュー坊ちゃんすみません、お越し頂きましたが今日はこれで……」


「いやいや、今、ボク達来たばかりですから!」


 リューは慌ててサイテンにツッコミを入れる。


「せめてこちらの用件を聞いてからにして下さい!」


 続けてリューが言うとサイテンも自分の悪いところが出たと思ったのか謝った。


「すみません、つい……。──それで、今日は何のご用件でしょうか?」


 やっと本題に入れるとリューは安堵して教師の件をお願いした。


「うーん。そうですね。ご協力したいところですが、研究や論文作成など色々あるもので、上手く時間を割くのは難しいですね。あ、私のところに読み書きを学びに来てた者が街にいるのでそちらを紹介しましょう」


 体よく断られたが、代わりの人物を紹介された。

 なんでも、『教師』のスキル持ちらしい。

 今は『薬剤ギルド』で受付事務をしてるそうだが、勧誘してみる事にした。


 リューはサイテンに手紙を書いて貰い、それを薬剤ギルドの受付事務の女性に渡した。

 腰まである黒い長髪に眼鏡、痩せ型ですらっとしている。

 エルフのリーンが傍にいるので感覚が麻痺しそうだが、この女性も十分美人と言っていいだろう。


「サイテン先生から?」


 驚いた顔をしていたが、手紙を読むと目を輝かせた。


「私、シキョウと言います。ぜひやらせて下さい!」


 あっさりと今の職を辞める事に躊躇がないので、リューはびっくりしたが、本人がやる気なので任せる事にするのだった。

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