第52話 学校の勉強ですが何か?

 学校の建物に、教師の確保、あとは、生徒が集まるかどうかが問題だった。

 どの時代でもそうだが、貧しければ子供は働き手であり、それを手放す親はそういない。


 だが、今のランドマーク領は事情が違った。

 インフラも整い始め、領主の改革で領民は裕福になってきている。

 裕福になれば余裕が生まれ、子供の将来を考えるゆとりが親にもできつつあった。


 早速、学校の設立と、その目的を領民達に伝え、生徒の募集を大々的にした。


 すると、子供達を学校に行かせて読み書きを学ばせようとする者が思いのほか多かった。

 あっという間に一クラス分の子供が集まった。


 そこへ、時間帯によっては自分も読み書きを学びたいと希望する大人も現れた。


 読み書きの重要性は、大人になって社会に出た者ほど現実を知り、子供の時に勉強出来ていればと後悔するものだ。


 なので、夕方からは、大人向けの授業をやる事にした。

 教師はシキョウ他、数人が確保できているのでシキョウに割り当てをして貰う事にした。


 シキョウは俄然やる気で、頼もしい。

 本人も学校には思い入れがあり、色々と提案してくれる。

 先を見通した意見も多いので、シキョウに学校の事は全面的に任せて良さそうだ。



 リューは学校の為に黒板を用意した。


シキョウから何か書くものをという希望があったのだ。


 作り方は簡単で土魔法で岩板の表面を綺麗にしただけだが、チョークで字が書ければ十分だった。


 チョークは石膏を街で入手してそれを固めて作ったら完成だ。

 作りは簡単だったが、教える側にはとても便利なものだった。


 生徒一人一人にも薄い石板を用意して、書けるようにした。

 やはり、書いて覚えるのが一番だからだ。


 難点は落としたらすぐに割れるということだったが、リューの土魔法でいくらでも用意できるので、学校の庭には、予備で作った石板が山積みになっていた。



 学校の開始はスムーズだった。

 全てを任されたシキョウが一つ一つ問題を解決して、初日を迎える頃には慌てる事なく授業が行われた。


 生徒達は目を輝かせて先生の話を聞いて、黒板を見る、積極的に石板に黒板の字をマネして書く。

 消しては書く、その繰り返しだ。


 廊下から初授業を眺めていた父ファーザとリューは、この光景にランドマーク領の未来に手応えを感じるのだった。




 領民からの反響は大きかった。

 日が経つごとに領都を歩いているとお礼や感謝の言葉が送られてくる。


「自分の名前が読み書き出来る様になりました!」


 という、まだ、そのレベルではあったが、これから完全に読み書き出来る様になれば、本を読めるようになったり、仕事で計算出来る様になったりと、可能性が広がっていくはずだ。


 読み書きと簡単な計算を教える授業は無料で行っていた。

 その分は、ランドマーク家の負担になるが、目に見えない部分で将来、この領地にリターンがあると見込んでいる。

 それに悪さをする商人もいなくなるだろう。

 不当な契約書で騙されていた者は文字が読める事でそれを回避し、計算できずにピンハネされる者も自分で計算出来ればそれも無くなる。


 悪い商人はこの街から駆逐されるのだ。


 近い将来そうなるだろう事をリューは確信した。


 もちろん、字が読めても騙される者はいる。

 以前のランドマーク家がそうだった。

 信用して任せていたら、請求額の水増しが行われていたのだから、信用するのも限度がある。

 だが、字が読め、計算出来れば、いつか被害に気づき、訴え出てくれる者は現れる。

 その時、ランドマーク家が裁けばいい。



 領民の可能性が広がる事を想像したらリューは楽しみでウキウキするのだった。



 ある日の事。


 道を歩いてると、道路上に落書きがされていた。


 ○○好きだー!


 とか、


 ○△の馬鹿!


 とか


 練習を兼ねているのだろうが、実名を上げちゃいけないだろ。


 というか景観を損なう。


 なので、リューはすぐに看板を立てた。


「道への落書き禁止」


 すると落書きはすぐに収まった。


 文字が書けて、文字が読める、ちゃんと領民は出来る様になってきている。

 その事にリューは嬉しかったが、それ以上に、領民が看板の内容にちゃんと従う良識がある事がもっと嬉しいリューであった。

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