第30話 模倣品ですが何か?
コヒン豆の収穫時期が来た。
切り拓いた最初の畑からも収穫出来た事でこれまでより沢山出荷できそうだ。
驚くべきは商人の買い取り額が前回とほとんど変わらない事だ。
「今回、格段に生産量は上がりましたが、それでもまだ、需要に対して供給が追い付いていませんから、値段は下げられませんね。ただ、今まで以上に出荷できますから需要のすそのはまた広がると思います」
商人のバスコが今季の『コーヒー』の売れ方について予測を立てた。
「まだ広がりますか!?」
リューが期待に胸を躍らせた。
「ええ、王都方面にも商会本部が売り込むつもりでいるようなので、まだまだ需要は伸びますよ」
バスコが後の事は商会にお任せ下さい、と胸を叩いて張り切る姿勢を見せる中、
「そういえば、少しですが模倣品が出てきました」
と、バスコが報告してきた。
「模倣品!?」
ファーザとリューは驚いた。
もう、誰か真似してきたようだ。
「この『コーヒー』は、ランドマーク家の特許商品ですからそれは許されてませんが、今回の模倣品が少々質が悪くてですね……」
「「質が悪い?」」
「ランドマーク家の剣が交差する月桂樹入りの家紋を商品の表にちゃんと入れていて、さらに出荷元はランドマーク家から許可は貰っていると言い張っていたそうです」
ファーザとリューはお互い目を見合わせた。
「ただ、早摘みで豆が若い上に加工が雑で味がランドマーク家の物とは雲泥の差だったので、すぐに偽物と判断して商業ギルドが即刻市場から排除しました。買い付けてきた商人も罰則に照らし合わせて処分済みです」
「それで、出荷元とはどこなんですか?」
ファーザが、確認をした。
「……隣領のエランザ準男爵領です」
はぁー
ファーザとリューのため息が執務室に響いた。
またアイツか。
「どうも、エランザ準男爵が自らの命令で、農作物の収穫直後に領民に森に入らせて集めさせたようです。取引した商人が言うには、『弟分である騎士爵からは許可は貰っている、元々、あれは、自分が教えてやったものである。安心しろ。』と言われて信じてしまったようです」
「本当に質が悪いですね、お父さん」
リューが呆れた。
ファーザは再びため息をつくと、
「商業ギルドの素早い対応に感謝します。今のところ、バスコ殿に相談なしで他に『コーヒー』の出荷を許可するつもりはありません。エランザ準男爵の対応についてはこちらで何とかします」
と、絞り出すように伝えるのだった。
商人バスコとの今季の契約を結び、感謝を告げて帰るのを丁寧に見送ると、リューとファーザはまた一緒にため息をついた。
「どうしたものか……」
「どうしたものでしょう……」
ランドマーク家の家紋を使用して粗悪品を売ろうとしただけに本当に質が悪い行為だ。
今回は商業ギルドの対応の速さに助けられたが、下手をしたらランドマーク家の信用に傷が付くところだった。
何しろ『コーヒー』の取り引き相手は羽振りがいい貴族だ、一度誤解されたら文字通りランドマーク家が潰される可能性もある。
これは厳重に抗議して、対応しなければならない。
寄り親であるスゴエラ辺境伯にも報告しなければならないだろう。
後日、ファーザが直々にエランザ準男爵領に乗り込み抗議したが、馬耳東風という対応だった。
反省をする気はないらしい。
なので、事の顛末をスゴエラ辺境伯に報告する事にした。
聞いたスゴエラ辺境伯はこれには呆れ、
「わかった、エランザには儂から言っておこう。ランドマーク家の名に傷が付けば寄り親であるスゴエラ家の沽券にも関わるからな」
こうして、エランザ準男爵はスゴエラ辺境伯に呼び出されると叱責され、ランドマーク家に謝罪に行くようきつく言われたようだ。
ようだ、というのはまだ、謝罪に来ていないからだ。
どうやら、格下とみている騎士爵に頭を下げるのは相当プライドが許さないようで、兄貴分と弟分として兄弟共に仲良くして行こうじゃないか、という内容の手紙が来ただけで謝罪は一言もなかった。
どうやら、それで仲直りしたつもりらしい。
ファーザからその手紙を渡されたリューは、
「これ以上、相手にするのも無駄な労力だから無視しようお父さん」
と、ファーザにアドバイスした。
ファーザは苦笑いしてその意見に賛同するのであった。
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