第29話 城壁を築きますが何か?

 オークキングとオークジェネラル、その群れの討伐から1週間が経った。


 領内外にもこの武勇譚は広まり、スゴエラ辺境伯の元にランドマーク騎士爵家あり、と、その勇名はより一層高まった。


 スゴエラ辺境伯からも親子三代の活躍に惜しみない賛辞が贈られた。

 ランドマーク家が敗れていれば、明日は我が身だったのだ、聞けばオークキングがAランク討伐対象のオークエンペラーになりかけていたと、冒険者ギルドからの解剖報告も受けている。


 ランドマーク家は魔境との防波堤の役割をしっかり果たしてくれた。

 スゴエラ辺境伯は最近のランドマーク家の躍進も鑑みて、王都に、この忠臣の準男爵への昇爵を求める事にした。


 後日、これが認められ、ランドマーク家は昇爵するがそれはもう少し後のお話。




 祖父カミーザとリューは魔境の森との境に、改めて土魔法による城壁と、それに付随する小さい砦を築き始めていた。


 今回は急ごしらえのものではなく、丈夫な恒久的なものである。


 今まではカミーザが一人、森で魔物狩りをする事でバランスを保っていたが今回の件で歳を感じたらしかった。


「すまんなリュー、手伝わせて。ワシは細かい魔力操作は苦手でな、助かるわい」


「いいえ、おじいちゃん。ボクも必要だと思ってたから」


 そう、リューも今回の戦いでランドマーク領を守る為にもちゃんとしたものを作る事が必要だと認識したのだ。


 とはいえ、魔力回復ポーションも無限ではない、流石に今回の件で在庫が不足気味になっていた。


「おじいちゃんは、魔力回復ポーションの材料を森でみつけてきて下さい」


「人使いが荒い孫だわい、わはははっ!」


 もちろん、冗談だが、「在庫切れなら仕方ないのう」と、森に入っていくのだった。




 数日、カミーザとリューは魔境の森との境で寝泊まりして、高さは低いが丈夫な城壁と小さい砦を完成させた。


 これから、領兵を数名見張りとして常時滞在させる事になるので、費用も嵩むが景気が上向きな今のランドマーク家なら負担にはならないはずだ。


 領境にはこれまで通り祖父カミーザも定期的に顔を出すし、これからランドマーク領も今以上に安全になることだろう。


 リューは城壁の大事さを今回の件で知ったのだが、ランドマークの街にはその城壁が無い。


 なので父ファーザに作る事を進言した。


 もちろん、リューがまた、道路と同じようにコツコツ毎日作るので経費はそんなにかからない。


「それは私の願いでもあるが、一端、主であるスゴエラ辺境伯に相談してみよう。勝手に城壁を作ったら謀反を勘繰られるかもしれん」


 確かに、父ファーザの言う通りだった。


 家臣が急に城壁を築き始めたら、戦争の準備と勘繰られてもおかしくない。


 ランドマーク家の為にとの思い付きが、時には危険をもたらす可能性がある事をこの時気づかされた。

 これからはもっと思慮を持って行動しなければならないと自分に言い聞かせるリューであった。




 今年も収穫の時期が来た。

 例年通り作物は豊作でコヒン畑も2か月後の収穫が楽しみだった。


 豊穣祭も盛り上がり今年もリュー達がお菓子に力を入れ、リゴーパイを出店で販売すると、


「今年も美味しい甘い菓子をありがとうございます坊ちゃん達!」


「今年も密かに楽しみにしてたから感謝だよ!」


「去年食べれなかったリゴー飴が出ないと聞いてがっかりしてたんだが、これ、美味しかったよ!」


 領民達からも大好評の末、今年も完売した。

 楽しみにしてくれてるのが嬉しかった。

 来年は何にしよう?それを考えるだけでも楽しいリューであった。



 が!


 そんな楽しいところに今年も奴が来た。


 隣領の領主エランザ準男爵である。


 性懲りも無く今年も不作だからと言ってお金を借りに来たのだ。


 もちろん借用書を作成してサイン後に貸したが、貸す際、昨年貸した分の利息を差し引いて渡した。


 これにはエランザ準男爵は大いに不満そうな顔をしたが


「別にこちら側は貸さなくてもいいんですよ?」


 と、リューが言うと、エランザ準男爵はファーザの手からお金の入った革袋を奪うように掴み取り出ていった。


「借りる人の態度じゃないね」


 とファーザとリューはその姿に呆れかえるのであった。


 もちろん、うちのメイドは言われなくても仕事をする。

 エランザ準男爵が去った後の玄関先に、疫病神を祓う為に塩を撒くのであった。

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