第25話 緊急事態ですが何か?
夏。
領地の南が慌ただしくなってきた。
ランドマーク領の南は魔境と呼ばれ、一帯が深い森で覆われた空白地帯で、治める者はいない。
その為、開拓次第では領地を広げるのも可能だが、さすがに中央の許可無しに領地を勝手に拡げる事は出来ない。それに、魔物が多い為、そう容易な事ではなかった。
そんな危険地帯から、祖父カミーザが鎧姿で馬に跨り、石畳の道を駆け、屋敷に現れた。
普段は離れに祖母と住んでいてこちらに顔を出さないが、定期的に南の魔境を警戒して森で魔物を狩って過ごしているが、今日はその途中で引き返してきた様だ。
「ファーザ、人手が足りん。冒険者ギルドにクエストを出せ」
「……相手は何ですか?」
「オークの群れだが、ちと数が多そうじゃ、800はおるかもしれん。今回はワシ1人だけでは骨が折れそうだ」
オークとは太った直立歩行する人型の豚で、牙が生えており、性格は粗野で力が強い。
人を下等種と見下している魔物だ。
「わかりました。それと同時に、スーゴにも領兵の徴集を伝達します。セバスチャン冒険者ギルドに連絡を頼む!」
「はい、早速!」
屋敷が慌ただしくなった。
「リューは、おじいちゃんと一緒に南の境に行って、指示に従って土魔法で城壁を築いてくれ。ジーロ、お前は怪我人が出た時に備えて後方で待機。──スーゴ来たか!オークの群れがこっちに来ているらしい、領兵を集めてすぐ南に向かってくれ。私もすぐに向かう」
それぞれ返事をすると、持ち場に向かう事にした。
みな迅速だった。
スーゴは馬車を出し、領兵を拾いながら、南の領境に向かう。
リューは祖父カミーザの馬に同乗し、シーマはそれに走って付いて行く。
セバスチャンがギルドに駆け込むと、冒険者ギルドでも緊急クエストが出され、緊張が走った。
普段、大物の魔物はカミーザとファーザが冒険者ギルドを頼らずに倒すので領主からのクエストが出される事は滅多にない。
なので緊急性は大という扱いだった。
田舎の冒険者ギルド・ランドマーク支部だが、武者修行で来る者も少なくない。
今も、Bランク(一流)冒険者が来ていた。
「もしや、赤髪鬼カミーザ殿や、鮮血の騎士ファーザ殿もおられるのか!?」
「ランドマーク家からの緊急クエストですので共闘になります」
「よし、うちのチームが受ける!すぐに向かおう。地元の冒険者、道案内を頼む」
元冒険者でもあるカミーザとファーザは有名人のようだ。
「おい、その赤髪鬼とは凄い奴なのか?」
同じく他所から来たらしい冒険者が興味を惹かれた様だ。
「元Aランク帯冒険者で戦場で活躍し、平民から騎士爵になった大人物だ!その息子ファーザ殿も一緒に活躍した事で有名だぞ!」
「元Aランク!?そいつは凄いぜ!一緒に戦えれれば、自慢できる!よし、俺も受けた!」
クエスト受注者は続々増えて田舎のギルドにも関わらず、その数は二十人にもなった。
それも、Bランク(一流)帯Cランク(強者)帯Dランク(熟練)帯で、構成されていた。
「それでは向かうぞ!」
Bランク冒険者チームがリーダーを引き受けて指揮を取り、南の領境に向かうのであった。
祖父のカミーザと馬に跨って疾駆してきたリューは一足先に現地入りした。
シーマも息も絶え絶えだが付いて来れている。
「シーマは少し休んでおけ。リュー、あの背の高い木の辺りからあそこの岩の辺りまで低めの土壁を築いてくれ。わしは本戦に向けて魔力は温存しておきたいのでな」
「わかりました、おじいちゃん」
リューは頷くとすぐ作業に移る。
地響きと共に大地がせり出し、石の壁が続々と出来上がる、魔力回復ポーションをマジック収納から取り出すと飲み干して続けた。
「うん?リュー、そのポーションはどうした?」
「?自作の魔力回復ポーションです」
「そんなものがあるなら先に言わんか、ほれ寄越せ」
魔力回復ポーションを受け取るとそれを片手に、カミーザが土魔法を使うと地鳴りと共に指定した以上の石壁を一気に作ってみせ、すぐ魔力回復ポーションを飲み干した。
「!!!」
リューとぐったりしていたシーマはその光景を目の当たりにしてただただ驚いた。
規模が違う。
「ポーションはまだあるか、リュー?」
「あ、はい」
マジック収納から数本出すとカミーザに渡した。
「味は不味いが良い出来だぞリュー。お前は薬剤師の才能もあるのう。わははは!」
緊張感がない祖父の豪快さに、緊張がほぐれたリューとシーマであった。
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