After the war

Epilogue

「――これで、全種目終了ね」


 マリンブルーの瞳が社員たちを見回す。ほとんど時を同じくして帰還したのは、不満そうにぶすくれている霧矢と、打ちひしがれたような表情の千草。彼らを見回しつつ、唯は軽くスマートフォンを操作した。天井から大型モニターが展開され、今までの戦績を映し出す。


 夜久霧矢――2戦、1勝1敗。

 高天原唯――3戦、2勝1敗。

 芝村千草――2戦、0勝1敗1分け。

 瀬宮雫―――2戦、1勝0敗1分け。

 白銀紅羽――1戦、0勝1敗。

 白魔真冬――1戦、1勝。


 総合成績――5勝4敗2分け。


「敵も強者揃いだったわけだし、悪くない戦績ね。一応勝ち越し……引き分けを敗北とカウントしたら負け越しになるけど……ルール的にはその辺、どうなのかしら」

「でも勝ち越したところで、俺様たちには別にリターンはねぇんだろ?」

「……私たちMDCには、ね」


 ふと呟かれた言葉に、真冬が薄紅色の瞳を上げた。ゴシックロリィタに包まれた姿を無機質な瞳に映し、口を開く。


「つまり……先方、神々にはメリットがある。私たちは、利用された……?」

「まぁ、そうなるわね。でもいいじゃない。今のうちに神々を抱き込んでおけば、今後にとってもいいんじゃないかしら?」

「あーいかわらず不遜だなァ、社長は」

「でも……それでこそ社長、ですよ」


 霧矢と雫の声。穏やかに微笑んでいる千草。相変わらずジャーキーをかじっている紅羽。そんな一同を見回し、唯は一つ手を打ち鳴らした。


「さ、大案件も片付いたわけだし、帰ってご飯にしましょう。焼肉屋を貸し切りで予約してあるわ」

「うぉ、マジか! 気ィ効くじゃねーか社長!」

「ねーねー社長、人肉も食べれるの?」

「勿論よ。今回は特別だからね」

「やったぁ!」


 デスクの上で宙返りしつつ、満面の笑みを浮かべる紅羽。そんな彼女を眺めながら、千草はやれやれと肩をすくめる。


「まったく……子供なんだから」

「……でも、千草さんも……楽しみそうです」

「そうかなぁ?」

「……所詮は中高生。美味しいものには、目がない年頃」

「そう言う真冬だって、生まれてから5年くらいしか経ってないよね?」


 軽快に言い放つと、いつの間にか傍に来ていた真冬は大人しく口を閉ざした。霧矢が来客用のソファから飛び降り、唯のデスクに歩み寄る。


「ンなことより、焼肉だ焼肉! 勿論、食べ放題なんだよなァ?」

「やっぱアンタもただの中坊ね……ええ、食べ放題よ。サイドメニューも飲み物も充実させるように指示してあるわ」

「ってことは、エリンギも……!」

「雫、アンタ本当にエリンギ好きよね」

「もしかして、ユッケとかも食べられたりする?」

「そういうと思って手配してあるわよ」

「……流石、社長」

「たーのーしーみー!」


 焼肉で盛り上がれるあたり、所詮はティーンエイジャーである。そんな彼らを眺めまわしながら、唯はそっと目を伏せる。彼女の目的のために利用してしまったことは申し訳ないけれど、それすらも今更だ。顔を上げ、彼女は凛と社員たちを、仲間たちを見回す。


 様々な激戦があった。

 爆走する極彩色の凱旋門。世界崩壊をもたらした砂時計。ゾンビたちを切り裂く緋緋色金。人間兵器と渡り合った忍。神話の武具を操る妖魔。狂気に満ちたバラエティ番組。ふざけた理屈を大真面目に語る六体の男。雷を纏うマーズチルドレン。麻薬入りのタピオカを売りさばく少女。異常な生命力を孕んだ黒焦げの怪物。そして、敷物と鎖の応酬。それらを一つ一つ、思い返しながら……彼女は仲間たちに向かって、両腕を広げてみせた。


「さぁ……今夜は何もかも忘れて、楽しみましょう!」

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