幕間
「戻ったぜ。なぁ聞けよ」
ニヤニヤと意地悪気な笑みを浮かべ、霧矢は定位置である来客用ソファに腰を下ろした。彼専用のデスクもあるにはあるのだが、当の霧矢ははそこを気に入っているらしい。そんな彼に溜め息を吐きつつ、唯は問いを投げかける。
「いきなり何よ」
「社長が負けた、例の六人で一人野郎。俺様、あいつに勝ってやったぜ!」
「はぁ!?」
思わず素に戻ったのか、唯の叫びが響く。窓際で真冬がかすかに片眉を跳ね上げ、千草が感心したように金色の瞳を見開く。ジャーキーを咀嚼する動きを一時停止する紅羽、表人格に戻ったのか、驚いたように青い瞳を見開く雫。そんな一同を満足げに見まわしながら、彼は唇を三日月形に吊り上げた。
「どうやら運は俺様に味方したみてェだなァ。相性が良かったし、諸々俺様に有利に働いてくれたからよォ!」
「……すっごく文句言いたいんだけどね」
「ってわけで、なァ社長。臨時ボーナスか何か出たりしねェか?」
「アンタは何を期待してんの? まぁ……この戦いが終わったら、何か考えとくわ」
適当に言い放ち、唯は机上のスマートフォンを手に取る。メモ機能を開き、今までの戦績を確認。4勝2敗1分け。なかなかいい感じではないだろうか。と、マリンブルーの瞳が動く。その視線が一瞥するのは、ふわふわとした赤毛。
「千草、アンタ一度も戦場に出てないわよね?」
「あぁ、うん」
「なら、次はアンタの番よ。一人だけずっと留守番っていうのも、飽きるでしょ?」
「んー、確かにそうかも」
口元に指をあて、千草は金色の瞳を瞬かせる。今のところ、この戦いで選ばれていないのは彼だけだ。回転椅子からゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをする。
「まぁ、皆の話聞いてるだけでも、それなりに楽しかったけどね」
「でもぉ、やっぱ『自分も出たいなー』とか思わない?」
「うん、紅羽の言う通り。ずっと僕だけ留守番っていうのもつまんないし。折角だから暴れさせてもらおうかな……これも戦いだから、ね?」
薄く微笑み、ふわふわの赤毛を揺らして歩き出す千草。その背中に、かすかに震える声がかかった。
「あっ、あのっ! ……ほんとに、この戦いは、何が起こるかわからないので……」
「あは、一番理不尽な目に遭った雫が言うと味わい深いね。大丈夫、今まで皆の話聞いてわかってるよ」
軽快に笑い、千草はふわふわの赤毛を揺らして振り返る。蛇のような金色の瞳に、どこか楽しそうな光が宿った。
「それじゃあ――頑張ってくるからね?」
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