5th battle:芝村千草vs雷神のアナトリア

第1幕 さっかー

「……んー? なぁんか、既視感があるんだよなぁ……」


 朱色、緋色、そして金色。三色に塗り分けられた選手控室で、千草は眉をひそめていた。戦いの最初の方、仲間の一人が話していたゲーム。その時はとんでもないステージギミック……もとい、対戦相手が登場し、勝てたことは勝てたけれど、世界が滅びたそうだ。正直、未だに何を言っているのかよくわからないけれど。彼女がそう言うのならそうなのだろう。


「にしても……改めて説明見ると、あたおかな競技だなぁ」


 人間をボールに見立て、それをゴールにぶち込む競技。

 改めて文字に起こすと、頭がおかしいことがよくわかる。

 だけど、と彼は小さく息を吐いた。立ち上がり、ひとつ伸びをする。


「まぁ……どっちにしろ、僕のすべきことは変わんない。折角だから、不殺チャレンジでもやってみようかな?」


 呟きつつ、扉がゆっくりと開いていくのを眺める。

 蛇を思わせる金色の瞳は、どこか不敵に煌めいていた。



 フィールドに出ると、千草は思わず足を止めた。金色の瞳が瞬き、一人の女性を映す。

 赤毛、赤い瞳、色白の肌、日本人じみた顔立ち。ピンク色を基調にしたガイドの制服。年の頃は20代前半程度だろうか。大人の女性だ。


(対戦相手、か……雫の時とは違って、普通の人?)


 流石に世界が滅びることはないだろう。とりあえずの安堵に息を吐くと、赤い女性が息を吸う気配。そちらを見やると、彼女は千草に向けて声を上げた。


「あのー! もしかして、対戦相手の方ですかー?」

「そうだよー。僕は犯罪対策会社MDC所属、芝村千草ー。今日はよろしくねー」


 こちらも大声で挨拶を返しつつ、千草は彼女に歩み寄っていく。対し、彼女は赤い瞳を瞬かせ、自己紹介を返した。


「よろしくお願いします、チグサさん。私はハルカ・アナトリアと申します。火星の環境維持プラント“アイオリス”で、観光ガイドをしております」

「へー、火星で? いいね、機会があったら今度行ってみたいかも」

「うふふ、お客様が増えると私も嬉しいです! ……ですが」


 ふと、その赤い瞳が隙のない光を帯びる。彼女もまた、人間ではない存在なのだ。だが、千草はそんなことを気にする様子もなく、同じく蛇のような瞳を瞬かせる。

 客席から一体のUFOが飛来し、ボール役と思われる人間を運んでくる。まだ10代にも達していないほどの子供が、あまりの恐怖に震えながら着地する。そんな彼を挟み、二人は貼りつけられた笑顔を交わす。


「……この競技では、情け容赦はかけませんからね?」

「ふふ、望むところ。負けないからね?」


 ――そして、試合開始のホイッスルが鳴り響く。

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