3rd battle:白銀紅羽vsアル
第1幕 かわらわり
ごうごうと鳴り響く風の音。荒れた海が響かせる波音。大型船の内部から見えるのは、夏の嵐が吹きすさぶ夜の海。雨と風と波の音の中を、船舶は切り裂くように進んでゆく。
そんな船の内部、遊覧船のように椅子やテーブルが並べられた部屋。そこに、二つの人影があった。そのうちの片方、癖の強い黒髪をポニーテールにした少女は、光のない紅色の瞳を隣の人影に向けた。齧っていた赤黒いジャーキーを飲み込み、口を開く。
「ねーねー。暇じゃない?」
「だな。いつになったら始まんだよ、ルール説明」
煤けたような赤茶色の髪、褐色の肌、ぎらつく双眸。どことなく人間とは違うような雰囲気を持つ彼は、少女と同じく退屈そうに銃器をもてあそんでいた。
「やっと呼ばれたかと思えば、待ち時間なっげぇんだよ……」
「暇だから自己紹介しよーよ。あたし、
「……そうか。ちゃんと強いんだろうな?」
「……弱くはないと思うよ?」
「んで疑問形なんだよ」
持参した袋から新しいジャーキーを取り出しつつ、首を傾げる紅羽。対し、褐色肌の男は呆れたように、ぎらつく瞳を細めた。
「まぁいい。オレはアル。突貫同盟のメンバーだ。散々待たされた挙句にようやく出番が来たんだ、戦って戦って勝たせてもらうぜ!」
「あはっ、いいね、いいねぇ。そういうの好きだよ。よろしくねぇ!」
ぎらつく双眸と光のない瞳が交錯し、戦闘狂じみた笑みと狂気的な笑顔が交わされる。と、船内のスピーカーから唐突に雑音が鳴り響いた。トランシーバーのように音割れのひどい音声にのって、張りのある男の声が耳を打つ。
『諸君! これよりルール説明を開始するのであーる!』
「んだよ、遅っせぇな。待ちくたびれたぜ」
そうは言いつつも、アルの口元に浮かぶ獰猛な笑みは隠しきれていなかった。一方、紅羽はただ、きょとんと首を傾げる。そんな二人の反応を知ってか知らずか、音割れのひどいアナウンスはさらに言葉を続けた。
『現在、この船は、海の上に作られた多重プラットフォームに向かっているのであーる! 鉄で作られた七階建ての六角形のうち、1階層を『瓦』と呼ぶのであーる! 嵐が止む前に、それらを一人十五枚、合計三十枚、破壊できたらクリアなのであーる!』
「ハッ。なんだ、楽勝じゃねえか」
不敵な笑みを浮かべ、アルは言い放つ。相性が良かったのか、それとも何か策があるのか。一方、紅羽の方はきょとんと首を傾げていた。ルールはなんとか把握しているようだが、作戦など考えていないのだろう。
『建物内部では自走警備ドローンや土木作業用人型ロボットなどが立ちはだかっているのであーる! 気をつけるのであーる! 破壊手段は問わないが、プラットフォームは人力での破壊は基本的に不可能であーる! 中央最上階には全体のコントロールシステムがあり、そこでコントロールパネルを操作することで、各階層を一斉パージすることができるのであーる!』
「……?」
「関係ねえな……そんな訳わかんねぇシステムなんざ使わなくても、オレが圧勝してやんよ」
光のない瞳に疑問符を大量に浮かべている紅羽、己に敵などないといった具合に両腕を組むアル。そんな二人を乗せて、大型船はゆっくりと減速してゆく。
『それでは、健闘を祈る、であーる!』
最後にそんなアナウンスが響いて、消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます