3rd battle:白銀紅羽vsアル

第1幕 かわらわり

 ごうごうと鳴り響く風の音。荒れた海が響かせる波音。大型船の内部から見えるのは、夏の嵐が吹きすさぶ夜の海。雨と風と波の音の中を、船舶は切り裂くように進んでゆく。


 そんな船の内部、遊覧船のように椅子やテーブルが並べられた部屋。そこに、二つの人影があった。そのうちの片方、癖の強い黒髪をポニーテールにした少女は、光のない紅色の瞳を隣の人影に向けた。齧っていた赤黒いジャーキーを飲み込み、口を開く。


「ねーねー。暇じゃない?」

「だな。いつになったら始まんだよ、ルール説明」


 煤けたような赤茶色の髪、褐色の肌、ぎらつく双眸。どことなく人間とは違うような雰囲気を持つ彼は、少女と同じく退屈そうに銃器をもてあそんでいた。


「やっと呼ばれたかと思えば、待ち時間なっげぇんだよ……」

「暇だから自己紹介しよーよ。あたし、白銀しろがね紅羽くれは。ちょっとした犯罪対策会社で働いてる17歳。とりあえずよろしく?」

「……そうか。ちゃんと強いんだろうな?」

「……弱くはないと思うよ?」

「んで疑問形なんだよ」


 持参した袋から新しいジャーキーを取り出しつつ、首を傾げる紅羽。対し、褐色肌の男は呆れたように、ぎらつく瞳を細めた。


「まぁいい。オレはアル。突貫同盟のメンバーだ。散々待たされた挙句にようやく出番が来たんだ、戦って戦って勝たせてもらうぜ!」

「あはっ、いいね、いいねぇ。そういうの好きだよ。よろしくねぇ!」


 ぎらつく双眸と光のない瞳が交錯し、戦闘狂じみた笑みと狂気的な笑顔が交わされる。と、船内のスピーカーから唐突に雑音が鳴り響いた。トランシーバーのように音割れのひどい音声にのって、張りのある男の声が耳を打つ。


『諸君! これよりルール説明を開始するのであーる!』

「んだよ、遅っせぇな。待ちくたびれたぜ」


 そうは言いつつも、アルの口元に浮かぶ獰猛な笑みは隠しきれていなかった。一方、紅羽はただ、きょとんと首を傾げる。そんな二人の反応を知ってか知らずか、音割れのひどいアナウンスはさらに言葉を続けた。


『現在、この船は、海の上に作られた多重プラットフォームに向かっているのであーる! 鉄で作られた七階建ての六角形のうち、1階層を『瓦』と呼ぶのであーる! 嵐が止む前に、それらを一人十五枚、合計三十枚、破壊できたらクリアなのであーる!』

「ハッ。なんだ、楽勝じゃねえか」


 不敵な笑みを浮かべ、アルは言い放つ。相性が良かったのか、それとも何か策があるのか。一方、紅羽の方はきょとんと首を傾げていた。ルールはなんとか把握しているようだが、作戦など考えていないのだろう。


『建物内部では自走警備ドローンや土木作業用人型ロボットなどが立ちはだかっているのであーる! 気をつけるのであーる! 破壊手段は問わないが、プラットフォームは人力での破壊は基本的に不可能であーる! 中央最上階には全体のコントロールシステムがあり、そこでコントロールパネルを操作することで、各階層を一斉パージすることができるのであーる!』

「……?」

「関係ねえな……そんな訳わかんねぇシステムなんざ使わなくても、オレが圧勝してやんよ」


 光のない瞳に疑問符を大量に浮かべている紅羽、己に敵などないといった具合に両腕を組むアル。そんな二人を乗せて、大型船はゆっくりと減速してゆく。


『それでは、健闘を祈る、であーる!』


 最後にそんなアナウンスが響いて、消えていった。

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