幕間

「ただいま。完封勝ちしてきたわ」


 VR空間を連想させるビルに戻り、唯は勝ち誇ったように微笑んだ。周囲を見回すと、丁度戻ってきたと思われる雫と真冬の姿。


「二人の方はどうだった?」

「……その、世界の終焉を見ました」

「は?」


 先に応じた雫の言葉に、唯は思わず半目で問う。しかし、実際そうだったのだから仕方がないだろう。


「勝負には、勝てたんです……けど、世界が一つ、滅びました」

「え、ちょっと待って、雫ちゃん、どういうこと?」

「その……かくかくしかじかで……」


 サッカーのような競技をしていたら、世界が滅びた。

 そんなことを信じられる者が、果たして何人いるだろうか。

 唯と千草の問いに答えつつ、雫自身も先程発生した事象を反芻していた。


 ……彼女は、感情だけの少女は、今、何を。


「……成程ね。だいたいわかったわ」

「え、社長、なんで理解できたの?」


 千草のツッコミはガン無視し、唯はちらりと真冬に視線を向ける。ひどく白い彼女は、虚ろな表情に心なしか喜びの色をのせているようで。


「真冬。アンタの方はどうだった?」

「……相手も、なかなか、いい線いってた。……危なかった」


 淡々とした言葉。しかし、それはどこか大きな槌のような重みをもっていて。VR空間のようなオフィスに静かな衝撃が走る。来客用のソファを占領して眠っていた霧矢が跳ね起き、紅羽がジャーキーを喉に詰まらせて軽く咳き込んだ。


「えっ、真冬ちゃんが危なかったの!?」

「おいおいマジかよ……人間兵器が危機に陥るとか、嘘だろ?」

「……でも、ありえなくはない、ですよ。私が相対した方も、世界を滅ぼすほどの方でしたし……」

「それもそっかぁ」

「簡単に納得しないで、紅羽」


 わかっているのかいないのかはわからないが、とにかくジャーキーを頬張る紅羽。そんな彼女に呆れたように息を吐き、唯は自分の戦いのことを語ろうとして――ふと顔を上げた。即座に机上のスマートフォンを手に取り、眺める。


「……成程ね」


 そして、周囲のメンバーを睥睨する。


「紅羽、出番よ」

「おっ! ご飯!?」

「……まぁアンタにとっては、ご飯と一緒ね」


 小さく息を吐き、唯はスマートフォンを置く。

 白銀紅羽は人肉以外の食品を受けつけない特殊体質だ。そしてこれは、異世界の人間との戦い。紅羽はジャーキーを飲み込み、自分のデスクの上に仁王立ちする。ガッタァンッ、と派手な音がオフィスに響いた。


「いよいよ楽しい楽しいご飯の時間だねぇ! そろそろ人肉ジャーキーにも飽きてきた頃合いだし! 逆うーばーいーつ、だねぇ!」

「紅羽、それ普通の外食じゃない?」

「つか、俺様の出番はいつなんだよ、マジで」

「知らないわよ。先方の指示を待ちなさい」


 相変わらずソファを占領したまま文句を言う霧矢を一蹴し、唯はふっと不敵に微笑んだ。


「どうやら私も次の戦いが来ているようだしね。次も余裕で勝ってくるわ。紅羽、アンタもちゃんと勝ってくるのよ」

「もっちろん! ついでにお腹もいっぱいにしてくるからねーっ!」

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