第178話 わたしに言われてもな!

 金曜日の夜のできごとである……。



 この日、わたしたちの部屋に前乗りすると意気込む、我らが妹・美琴みことちゃん(仮名)とは、姉を同伴するからというので、家で待ち合わせることにしていた。


 そんなわけで、通っているアルバイトが終わり、彼とふたりして家へ帰る途中、緩やかな下り坂でその事件は起こった……。


 わたしにとっては、初めてのできごとだった。隣を歩いていた彼・つかさくん(仮名)ですら、なす術がなかったくらいに突然だった。


 それはもう、派手に、盛大に、大胆に……転んだのである。坂道で……。すでに歩き慣れた坂道そこには、段差などあったはずもなく……。

 何かを踏みつけたような気はしたけれど、足元が暗くて見えなかったわけでもなく……。

 躓くように前に倒れ始め、目の前に迫ってくるアスファルトの路面。でも……、どうしてこういうシチュエーションって、スローモーションなんだろ? 『あぁダメだーっ! 顔から行くーっ!』って思った時に漸く手が出て……。


 まぁ、擦過傷5カ所だけで済んで良かった。

 帰って、傷口洗って、絆創膏貼っとけばだいじょうぶだろ? って、わたしは思ってたけど。


 そういえば、わたしに対して、超過保護な彼がいた。すごく心配させたのは悪いって思うけど、『気をつけないと!』って叱られてしまった。


 さらに、家の入り口で合流した姉妹には、速攻でお風呂場。傷口を洗うだけなのに、すべての見ぐるみを剥がされ……。上から下まで、まるで、舐めるように見回され……。


「ひなちゃん(仮名)、ケガはこれだけ? ほかに痛いところは?」

「は、恥ずかしい……」

「恥ずかしがってる場合じゃないです! 心配しちゃうから、気をつけてくれないと」


 こちらも、まったくもって言い返せるわけもなく……。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 ……で? 一晩寝て翌土曜日。体のあちこちが、酷い筋肉痛のように痛いのです。


「どんだけ、無理な体勢で転んだんだよ?」

「わたしに言われてもな!」


 とは、わたしの自嘲の愚痴に、土曜の夕方に襲来した親友の言葉……だったり。

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