第93話 プレゼント?

『ふたりの邪魔しちゃ悪いから、帰るよ! 月曜日明日、話、聞かせてくれ!』


 日曜日に、そう言って帰っていった友人が、朝の教室で待ち構えていた。いや、友人たちが……だった。



 教室に足を踏み入れた途端、思わず後退あとずさるわたし。そんなわたしを見つけて、一歩ずつ距離を詰めてくる友人たち。教室の隅まで追い詰められる。逃亡ルートを探し、逃亡先を考えて……。うぇっ? すでにクラスの女子たちに囲まれてる?


「さぁ、ひな(仮名)、日曜日昨日の顛末を聞こうか……?」


 友人たちを代表するかのように、そして、友人たちの声を代弁するかのように、親友の大槻おおつき美亜みあ(仮名)が、わたしの前に立ち塞がった。

 逃げられない……と観念したわたしが、日曜日のことを話し始めた。


「昨日、見に行った大学は、降りた駅から……」

「……」

「建物も綺麗で……」

「……」


 あれ? 美亜ちゃんの口角がちょっとだけ上がったぞ。真琴まことちゃん(仮名)は項垂うなだれてるし、莉緒りおちゃん(仮名)は、口元を隠してる。あ、笑いたいのを堪えてる顔だ。

 わたしが、そう、思ったと同時だった。


「誰が、大学のことを話せって言ったよ?」


 美亜ちゃんの鋭いツッコミに、今度は、わたしが首を傾げる。え? 受験の情報を聞きたいんじゃないの? みんな、受験生だよね?


「誰が、そんなを聞きたいかよ? そのあとも、渡瀬わたらせ(仮名)と一緒だったんだろ? みんな、そっちを聞きたいんだよっ! っちゃなひなの恋愛事情をな!」

っちゃなは余計だよ!」


 窓を背にするわたしの包囲網が、一段とせばめられた。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 昨日の行程を、ひと通り話し終え、クラスメイトの目に、『なんだ、それだけ?』感が浮かんだ時だった。莉緒ちゃんが、呟いた。


「ひなちゃん? その指輪、渡瀬くんからのプレゼント?」


 教室中に、黄色い悲鳴(古い表現だけど、まさにそれ)が響き渡った。

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