第92話 邪魔しちゃ悪いから

 前話第91話を引きずったのが、今回のお話。



 日曜日の朝、わたしは、昨日お泊まりした熊谷くまがい(仮名)姉妹と、いつもの駅に向かった。

 彼の用事につきあって出かける予定だったからだ。熊谷姉妹も誘ったけど……?


『ふたりの邪魔しちゃ悪いから、帰るよ! 月曜日明日、話、聞かせてくれ!』


 なにが邪魔……だよ。彼の用事って、オープンキャンパスへの参加だよ。

 まぁ、彼のお母さまにも頼まれちゃったしね。彼とのデートと考えたら、悪い気はしない。

 そんなことを話してるうちに、彼、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)と合流。高校の最寄駅で、熊谷姉妹とはお別れして、別の路線に乗り込むわたしたち。

 彼が見に行こうとしている大学まで、電車一本で行けるのは簡単だからいいけれど、朝の時間は各駅停車しか設定されてない。都内に入ったら乗り換えるか?


 無事に、目的地につき、説明会に参加するわたしたち。今回のオープンキャンパスは、オリエンテーションや学内の案内があって、その後、自由な見学になるようだった。

 受付で、『小さい子、一緒でだいじょうぶ?』という、いつもの一波乱ひとはらんはあったけど、そこはもう慣れたもんだ。

 生徒証を見せた瞬間の受付のお姉さん、表情が激変してた。


 それ以外は、何事もなく……。無事に彼の用事も終わり……。


 せっかく来たんだから……と、ちょっとだけ足を伸ばしてみた。ここからは、ホントのデートだ。彼の腕に、わたしの腕を絡ませて歩くのも、最近は慣れてきたようで、耳まであかくすることがない。嬉しいんだけど残念だったりもする。


 まずは、商店街というにはおしゃれすぎる通りを、ふたりで歩いた。遅いお昼を先にしようと思っていたらしい渡瀬くんは、日曜日の人混みに驚いている。

 お店を見て歩くのも、そういう意味では初めてだったので、それはそれで新鮮だった。あれかわいい……とか、これどう……? とか言いながら通りを歩いた。

 でも、やっぱり、歩きながらも目に入ってきたのが、アクセサリーのお店。この通りにはそれが多い。お母さまからのネタ振りがあったおかげで、意識せずにはいられなかった。

 渡瀬くんも、なんだか気にしているようだ。チラチラと視線を送っている。


 もう、仕方ないなぁ……。そう思って、彼を呼び寄せた。ふたり揃って、展示されてたそれを見る。まぁ、わたしたち高校生風情が手を出せる金額ではない。彼も現実を思い知ったようだ。

 『バイトするかな』という彼に、『受験生でしょうが』と答えるわたし。

 彼が働いて収入を得て、それでも、わたしのことを思ってくれてるのだったら、遠慮なくねだることにしよう。

 彼に向かって、そう言った時だった。


 そのお店の店員さんらしきお姉さんと目があってしまった。あ、こちらにやってくる。

 『冷やかしでごめんなさい』って謝ろうと思ったわたしを制して、そのお姉さんが優しく微笑んでくれた。『買わないですよ』と言うわたしに、『買う前の準備も必要でしょ』と答えた後、ふたりの指のサイズを計ってくれて、どういうデザインが似合う? とか、材質とか、いろいろと教えてもらった。

 渡瀬くんは、プレゼントするなら、事前準備がたいせつだって言われてた。わたしのサイズだと既製品ではなかなか見つからないから……と。オーダーメイドだと、さらに高くなるよ……とも。

 わたしたちが知らないことばかりだった。でも、楽しかった。


 お店を出る時に、わたしのバングルを見つけたお姉さん。変わった素材のでよかったらって、お店を教えてくれた。自分たちの売上にならないのにね。親切なお姉さんだった。


 その後、この通りでのご飯を諦め、中華街に向かった。ふたりで食べたのが、『豚まん』。コンビニで売ってる肉まんの3倍くらいの大きさで、わたしは、その一個で満足してしまった。渡瀬くんは、ほかにも買ってたけど、最後は苦しいって言うくらいのボリュームがあった。


 それから、『氷川丸』が係留されてる公園を経由して、『赤レンガ倉庫』に寄ったけど、改装中でお休みだった。残念。でも、ああいう雰囲気、わたしは好きみたいだ。

 すぐ近くにある商業施設の中で、漸くひと息つくことができた。ふたりで、ぷらぷらしながら、いろいろなものを見ながら歩いていたので疲れた……というより、楽しかったね! と、話は尽きなかったけれど、そろそろ帰る時間だ。


 商業施設を出た目の前に、大きな観覧車があった。今度は、最後あれに乗ろう……と約束をした。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 お姉さんが教えてくれたお店も立ち寄ってみた。今のわたしたちには、これくらいがちょうどいいのかもしれないって思えた。

 そこで、渡瀬くんがわたしに……。わたしが渡瀬くんに……。お揃いのデザインの指輪を買った。

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