第89話 はぁ……?

 昨日の水曜日、友人の妹・美琴みことちゃん(仮名)の家で、勉強を教えてる家庭教師の最中に、わたしのスマホにメッセージが届いた。父からだった。



『彼のご両親と呑んで帰るけど、だいじょうぶ? 云々……』


 メッセージには、そう書かれていた。わたしからしたら、『はぁ……?』である。

 このおとなたち、当人たち以上に深いおつきあいが進行中のようである。


 彼……とは、現在、リアルの世界で、わたしがおつきあいしている、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)である。つきあい始めて4ヶ月くらいである。

 あぁ、それぞれの親には挨拶済みだし、さらに、それぞれの親からは公認されている。

 しかし、そんな、両家の親たちだけで、おとなのおつきあいをするまでになっていようとは、誰が考えられようか? わたしからしたら、『はぁ……?』である。


 父の通勤、わたしの通学で、一緒に使う路線の途中に、彼の最寄駅がある。彼は、普段、自転車通学だし、居酒屋さんとかに行ける歳でもないし、飲み屋事情に詳しいわけはないのである。

 しかし、おとなたちは違った。

 渡瀬家の最寄駅前で、次の日お休みのわたしの父が途中下車し、彼のご両親と合流して、駅前の居酒屋さんで、わたしと彼のことをさかなに呑むのだそうだ。


 まぁ、父も、たまには、そういうおつきあいがあってもいいと思うのだ。だから、『だいじょうぶ、ひとりで帰れるから』と返信しておいた……が、父からの更なる返事は、斜め上を行っていた。


「帰りに寄らないか? 来るなら、彼も呼んじゃうけど♡ 彼のご両親もひな(仮名)に会いたがってるし」



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 彼の最寄駅で電車を降りる。三つしかない小さな改札の向こうでは、彼が待っていてくれた。


「ごめんな、うちの両親が無理言ったらしくて」

「気にしなくていいよ。お父さんも乗っかってるみたいだから、お互いさまだよ。じゃあ、行こうか?」


 わたしの言葉を合図にして、彼がわたしの手をとってくれた。

 あ、わたし……、制服だけど、いいよね?

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