第90話 彼も呼んじゃうけど♡
水曜日の夜、次の日のお仕事がお休みの、わたしの父。彼のご両親と待ち合わせまでして、おとなの会合が執り行われていたのだ。
わたしの父、ひとりだと呑まないのだ。すごく強いのに。だから、たまには必要なことだよね?……って、思ってたんだ。
あ、彼……とは、現在、リアルの世界で、わたしがおつきあいしている、
「帰りに寄らないか? 来るなら、彼も呼んじゃうけど♡ 彼のご両親もひな(仮名)に会いたがってるし」
という、半ば強制的な、身内からのお誘いのメッセージ(しかも♡つき)。
渡瀬家の最寄駅で途中下車する。でも、この時、学校帰りのわたしは、制服のままだ。
小さな改札の向こうに、彼の姿を見つけた。彼と手を繋いで、会合場所に向かう
そんなわけで、どう見ても高校生の彼と、高校の制服を着た、どう見ても子ども……のふたりが、店の暖簾をくぐる。店内から一斉に視線が飛んでくる。
彼のお母さまが気づいて、すぐに駆けつけてくれた。そのまま、店の奥の座敷席に連れて行かれる。
その後が……、たいへんだった。父も彼のお父さまも酔うにつれ、子ども自慢が始まった。それも、自分の子どものことじゃないから困ったものだ。『親バカ』とも言えず……。
「司くんは、しっかりした男の子で……」
「ひな(仮名)ちゃんこそ……」
父は、彼を高校生男子にして、つきあい始めの親への挨拶ができていたことを、高く評価し。
彼のお父さまは、自分の息子にはもったいないほどの女の子だと、わたしを褒め。
そこから、ふたりの父親による掛け合いが続くこと続くこと……。
わたしと渡瀬くんは、暫し呆然としたまま、話の成り行きを見守ることしかできなかった。
そんなわたしたちを助けてくれたのが、彼のお母さまなのだ。わたしたちを、それぞれ父たちの隣に座らせ。
「ふたりとも、酔っ払いの相手はしなくていいからね。ひなちゃんは? 夕飯食べた?」
わたしの返事を待って、次に、自分の息子である渡瀬くんには、『帰ってからご飯作る気ないからね』と言いながら、『なに食べる?』って聞いていた。優しいお母さまだなって思った。
夕飯としていろいろと食べてる渡瀬くんを、お母さまと一緒に見つめながら、たくさんのお話をした。お母さまは、時々、父たちに茶々を入れながらも、基本的にはわたしに向き合ってくれていた。
楽しい一夜だった。
これは、わたしと
捻りもオチもないけど、
「司も、ひなちゃんを見習って、父親孝行してやんなよ。たまに……でいいんだからさ。ひなちゃんが、お父さんのこと大好き……って、いつも言ってるでしょ。それが、羨ましくて仕方ないのよ」
「そんなもんかなぁ……?」
「そんなもんなの」
お母さまの言葉に、わたしも大きく頷いて見せた。
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