第88話 かわいいって言え!
楽しくすごせたわたしは、一日、幸福感に包まれていたのだが……。その反動を受けたというか、反感を買ったというか。
今回は、受難が続いた、わたしの彼の話をしよう……。クラス中が、完全に『ラブコメ』のノリだ。
土曜日の朝、送迎バスに乗り込む前に、親友の
前日、美亜ちゃんからの命令で、足元は、黒のニーハイ。それに黒のハイカットのスニーカーを合わせてきた。そして、髪を結われた後で、制服のスカートが
どう見ても、元気でお転婆で活発な(どれも一緒か?)
バス待ちの時間、中等部の子たちからはきゃあきゃあ言われる。
そこへ、この日のふたり目の犠牲者? の割には意外と乗り気な、
その姿はまるで、ダークブラウンの◯音ミクちゃんのよう……。なんだ? わたしとのこの違いは……?
高校についても、わたしたちふたりは目立っていた。だって、かわいい莉緒ちゃんが、わたしの腕を組んで連れ回すのだ。教室を移動する時もそう、トイレに行く時もそう……。教員室に、莉緒ちゃんの用事で行く時も……。先生たちからは、『また、なにかやってるのね?』みたいな生温かい視線を向けられた。
でも、莉緒ちゃんは最後まで楽しそうだった。
そうなると、わたしが気になるのは、彼・
わたしは、彼の机の前に立ち、くるりとひとまわりしてみせた。
「ねぇ、渡瀬くん? ひなちゃん(仮名)かわいいよね? かわいいって言え!」
「ねぇ、どうかな?」
「うん、今日もかわいい」
最近の彼は、クラスメイトを前にしても恥ずかしがらずに、わたしのことを褒めてくれるようになった。莉緒ちゃんが無理やり言わせるように仕向たのもあるが、いい傾向だ。
ただ、この日のクラスメイトは、いつものように、わたしたちの仲について、鷹揚ではいられなかったようだ。
わたしが彼と話していると、その友人たちが渡瀬くんを呼ぶのだ。
彼がわたしの頭を撫でると、クラスの女子たちまで彼を呼ぶのだ。
その度に、彼は、わたしに謝って、向こうの輪の中に取り込まれていく。暫くすると戻ってくるのだが、わたしはそれがおもしろくない。
「司くん? あれって、みんなワザとやってるよね? なんか言われてるの? わたしのことで?」
「やっぱりワザとか? でも、ひなは気にしなくていいぞ。俺たちのことをみんな羨ましがってるだけだから。どうして俺ばかり! とか、
「う〜ん、でもさぁ、なんか邪魔されてるみたいで、わたしがおもしろくないんだけど?」
そんなことを言いながら、わたしがみんなのことを睨むと、みんなが揃ってあらぬ方向へと、視線を泳がせた。
これは、わたしと
捻りもオチもないけど、
「ひなにイヤな思いさせるのは、俺がイヤだから、あいつらには
そう言いながら、向こうの一団に近寄っていく渡瀬くん。そういうところは、時々だけど、頼もしく思える。
でも、やはりこの日は受難の相に支配されていたようだ。
渡瀬くんを、度々呼びだすクラスメイトを一喝してくれたのは、親友の美亜ちゃんだった。
いいところをすべて持って行かれた渡瀬くんは、帰る時間まで
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