第87話 気合い入れてこいよ!

 二学期が始まり、三日目。

 騒ぎは、わたしが、送迎バス乗り場に向かってる、朝から始まっていたのだ。



 騒ぎの元をプロデュースしたのは、わたしの親友である、大槻おおつき美亜みあちゃん(仮名)。

 前日(金曜日)の夜、メッセージが送信されてきた。『明日、黒のニーハイを履いてこい!』と。

 なにやら企んでいることは明白だが、別に断る理由はない。『渡瀬わたらせ(仮名)も喜ぶから!』って言われたら、なおのことだ。


 そして、美亜ちゃんの言いなりになって登校した今日の朝。電車の終点(高校の最寄駅)のホームの端っこで、朝っぱらから、白髪しらが混じりの茶髪をいじられるわたし。


「まったく! ひな? 三日も同じ髪型じゃないかよ。もちっと気合い入れてこいよ!」


『え? どうして、通学するだけなのに気合い入れてこなきゃダメなのさぁ? ゴムの色は毎日変えてたよ?』と言うわたしの頭に、手刀を落としてくれやがる美亜ちゃん。そのまま、手際よく、わたしの髪を梳いていく。

 あっというまにできあがったのが……、ツインテール。うへぇ、子どもみたい。


「漸く、できるくらいに伸びたからな。一度やってみたかったんだ!」

「自分のでやればいいじゃん」

「わたしみたいに大柄なのは似合わないんだよ! ひなみたいにっちゃ、いやいや、小柄な子のほうが似合うんだ!」

「なぜ、言い直す? それに小柄なほうが似合うんなら、莉緒りおちゃん(仮名)だろ?」


 わたしの苦しまぎれの言葉に、美亜ちゃんが、またしてもニヤリと小悪魔な笑顔を浮かべた。


「莉緒には昨日伝えた。わたしがやってやんなくても、ひなと違って莉緒は自分でできる。本人は乗り気だった」


 美亜ちゃんに、既に外堀は埋められていた。やはり、なにを言っても勝てない気がした。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 今日は、一日中、学校内で注目を浴び続けたおかげで……、疲れた。

 だって、なにかにつけ、莉緒ちゃんがわたしと腕を組むのだ。教室を移動する時もそう、トイレに行く時もそう……。教員室に、莉緒ちゃんの用事で行く時も……。先生たちから、生温かい視線を向けられてたよ。

 最後まで楽しそうだった莉緒ちゃんが言った。


「ひなちゃんと一緒だと、わたしまでかわいいって言ってもらえるから、なんか得した気分だよね?」


 いやいや、みんな莉緒ちゃんを見てるんだからね。

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