第79話 そろそろ紹介しろ!

 今日は、昨日のお話をしよう……。

 前話第78話ではなく、昨日行った『居酒屋さん』でのお話。



 最近は、ご無沙汰だったのです。大将(本人がそう呼べとうるさい)のお店。

 だって、最近はわたしとお父さんのお休みが合わなかったし……。

 だがしかし、今のわたしは夏休み。お父さんのお休みに合わせることができる、この幸せ。

 お父さんも、今では、わたしをおいてひとりでは絶対に行かないし。でも、たまには息抜きも必要だと思うんだよね。


「ひなちゃん(仮名)、お父さんとよく行く居酒屋さんがあるんでしょ? 旦那が、それを聞いて羨ましがっちゃって」


 そんな言葉を、わたしの彼、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)のお母さまが、以前仰っていたことも思いだした。


「じゃあ……、渡瀬くん、誘ったらくるかな?」


 飲んでた麦茶を吹きだすわたし。どうしてそうなる?

 この間第78話、送ってきてもらったろ? そのお礼? とか言ってるけど……。それなら、美亜みあちゃん(仮名)だって誘うべき……と言う、わたしの提案は即時却下された。美亜ちゃんは、何度か一緒に行ってるしね……。



 そんなわけで、美亜ちゃんの最寄駅(わたしの普段使いの駅は、ひとつ向こう)で待ち合わせをした。改札を出てきた渡瀬くん。その表情には緊張感が張りついている。


「ごめんね、いきなり。それに、無理やり」

「いやいや、ひなのお父さんから、誘われたってのはちょっと嬉しいかな?」

「ふ〜ん、そんなもん?」

「そりゃそうだろ? ひなの彼氏って認めてくれてるってことじゃん。でも、俺、呑めないぞ」

「誰が、お父さんの呑みにつきあえって言ったよ? わたしたちは、ノンアルコールだよ。あ、でも、ご飯は美味しいから期待していいよ」


 渡瀬くんを案内しながら、暖簾をくぐって中に入った。お店にはけっこうお客さんがいた。なんだか、知ってる人ばかりだ。でも、このご時世、賑やかだけどバカ騒ぎというほどではない。時々、お客さんの視線を感じたりしたけど、みんな、おとなしく呑んでいる。

 先に来ていたお父さんが手招きをしている。いつもは、お父さんとふたりカウンター席だけど、今日は彼がいるからかテーブル席に座っている。

 渡瀬くんに席をすすめ、わたしも隣に座る。

 大将夫人が、おしぼりとお通し? を持って、わたしたちのテーブルにきた。うちの味をちょっとずつ体験してもらおうと思って……とか言いながら、わたしたちの前にそれを置いていく。すごく素敵な笑顔だった。元々、綺麗な奥さまなのだ。その破壊力は凄まじい。


「司くん! 絶対、見惚れてたよね?」


 頬を膨らませるわたし。大きく否定する渡瀬くん。大将夫人がこともなに呟く。


「拗ねたひなちゃんは、やっぱりかわいいわよねぇ? 司くん?」

「そうなんです。でも、かわいいって言っても、ひなにはいつも否定されちゃうんです」

「おい、聞いたかみんな!」


 大将の言葉にざわつく店内。わけもわからず、キョロキョロと周りを見渡すわたし。そんなわたしに、大将が言葉を続ける。


「おい、ひな。そろそろ紹介しろ! お前の彼氏なんだろ?」


 わたしが紹介した後、一頻ひとしきり、わたしたちの話題で盛り上がった店内。みんなに取り囲まれながら、質問に答えていく渡瀬くん。その背中には、よそのお父さんたちの声援やら応援やらをたくさん浴びていた。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


「これじゃあ、おちついて、ご飯、食べらんないでしょっ!」


 と言う、わたしからの抗議は、当然、次の話題へのネタ振りとなるわけで……。


「いやぁ〜、司くん、愛されてんね〜?」


 なんだ、その大合唱は?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る