第78話 司は、ひなをっ!

 夏休みの旅行編、2日目がまだあるけど……。

 今日は、ちょっとだけ別の日のお話。



 夏休みに入る前日から、なにかと忙しかったわたしたち。

 現在、わたしがつきあっている、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)の家で、ご両親から進路の相談を受け、次の日から一泊二日の海、で、帰ってきて、大人になる準備をふたりで買いに行った後のこと。


 渡瀬くんの夏期講習が始まった。以前よりやる気に満ちているのはいいことなので、素直に応援することにした。

 因みに、わたしも彼と同じところに通い、別のクラスで受講している。ほかに一緒なのは、莉緒りおちゃん(仮名)と烏丸からすまくん(仮名)。ふたりは、渡瀬くんと同じクラスだ。

 わたしが、三人と曜日が重なるのは、週に三回。わたしは、比較的日程に余裕がある。

 美亜みあちゃん(仮名)たちは、ここから近いけど、別のところに通っている。目指す方向が違うからだ。夕方にはみんなで落ち合うことになっている。


 さて、そんな忙しい日常が始まった、渡瀬くんにとっての二日目、わたしの初日。七月下旬の火曜日のことである。

 がんばる彼を応援したいと思って、わたしが受講する曜日には、お弁当を作ってあげることにしたのだ。ご飯をたべるのに、駅前まで出てもよかったけれど、お昼休みの時間は一時間しかない。たぶん、どこも混んでるだろうし、それに、暑い。

 だったら、校舎内に設けられた飲食用のスペースで、渡瀬くんたちと四人で食べたらいいんじゃない? となったのだ。


 授業が終わり、渡瀬くんたちの教室に向かおうと席を立つ。そんなわたしの目の前に、見知らぬ男の子がふたりで立ち塞がった。意味もわからず責め立てられる。

 そんなふたりを避けて、横を通り過ぎようとしたわたしの腕が掴まれ、引き寄せられた。

 その弾みで、備えつけられた机にぶつかる。蹲って痛がるわたしを見下ろして、まだ訳のわからない言葉を浴びせ続けるふたり。立てずにいるわたしをこそうと、ふたりの手が伸びてきて、髪を掴まれた。『気持ちわりい髪してんな』って声が、頭上から聞こえてきた。

 あぁ、ダメだ……と、思ってしまったその時。


「ひなちゃん、遅いよぉ……、なにしてんの?」

「お前らっ、なにやってんだっ!」

つかさは、ひなをっ!」


 教室を覗き込んで、その入り口で固まった莉緒ちゃんの様子を見て、中の異変に気づいたふたりが飛び込んできてくれた。烏丸からすまくんは、わたしと相手との間に割り込み、自分の背中で、わたしを庇ってくれ、渡瀬くんが、肩で大きく息をするわたしの背中を撫でてくれた。


「だいじょうぶか? ひな?」

「うん……」

「なにされた?」

「わかんない……けど、絡まれた」



 彼らは、先日の器物損壊犯の友人だったようだ。その加害者が、学校側から受けた処分に納得できず、原因であるわたしと、この場所で偶然にも遭遇した。敵討ちのつもりで立ち塞がったんだそうだ。まったく、迷惑な話である。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 いつも、わたしのそばにいてくれる美亜ちゃんのありがたさが、よくわかった一日だった。

 莉緒ちゃんと烏丸くん、そして、渡瀬くんが、そこにいてくれたことが嬉しかった。


 この日、渡瀬くんは、机にぶつかって、『お腹痛い……』って言うわたしを、美亜ちゃんと一緒に、家まで送ってきてくれた。

 次の日、病院に行って、『打撲』の診断を受けてきた。

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