第08話 とにかく、離れてくれ……

 美亜みあちゃんの誕生日がすぎて、ひと月後くらいのお話。7月中旬、夏休み直前っていう表現のほうがいいだろうか?


 知り合ってから、何かにつけて後ろから抱きついてくる美亜ちゃん。中1としては大きなほうの自分の胸を、わたしの背中に押しつけてくる。わたしは、そっちのは持ち合わせてないからな。



 美亜ちゃんが、教室に飛び込んできた。なにやら興奮気味である。


「ひな! 期末の成績が貼りだされてる」

「中間の時も貼りだされてただろ? 今更……」


 わたしたちの通っていた中学は、各テスト終了後、成績上位陣の発表が恒例となっていた。そう、職員室前の廊下に、名前と点数が貼りだされるのだ。

 いろいろと賛否両論はあったけれど、そこに載らなかった、下のほうの子には優しく、もうちょっとだったね……の子には奮起を期待する。とかなんとか。

 競争心を煽る意味では、効果があったようだ。

 わたしは、興味なかったから、中間テストの時も見に行かなかったけど。


 美亜ちゃんは、それを見てきたのだろう。ふるふると震えながら……。


「わたしの名前があった……。25番!」

「おめでとう、がんばってたもんね」

「うん、がんばったけど。でも、ひなに教えてもらったからだよ。たぶん……」


 そう言いながら、またも、わたしに抱きついてきた。

 完全に油断してたわたしは、美亜ちゃんの胸に包まれる形になっていた。


「とにかく、離れてくれ……」


 やっとのことで、美亜ちゃんを押し除けたわたしは、浅く早い呼吸と、蒼白な顔色に苛まれていた。震える体を、自分の手で抱きしめるように押さえつけることしかできなかった。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 次回は、中学過去編まえのおはなし、カミングアウトしたときのお話……。もうちょっと続く。

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