第14話・鉄ウサギの月華〔学生時代〕③ラスト


 小一時間後──稲葉が連れていかれた孫支部で、月華が振り回したドクロ鉄球や錨で、ふっとばされて床で呻く。

 下っぱチンピラたちの姿があった。

 あっという間に任侠組孫支部の一つを壊滅的させた月華の前に、木刀を構えた用心棒の男が立ちはだかる。

 頬にキズがある、次元流の使い手が月華に向かって言った。

「そこまでだ、小娘……調子に乗り過ぎたな」

 擬耳ウサギ耳の男の前に、楕円形の次元異空間が出現する。

 男が異空間に向かって木刀を突き出す。

 直感で背後に気配を感じた月華が、横跳びしたのとほぼ同時に、背後に出現した異空間の楕円形から木刀の先端が突き出てきた。

 突き出た木刀が引っ込むと、異空間も消える。

 用心棒の男が言った。

「運よく避けたな………次は外さん」

 意識を集中させる月華。

(どこから、攻撃がくる?)

「覚悟しろ! 小娘!」

 月華の視界の隅に、雲海が広がる空と、雲に座って下界を見下ろしている少女の姿が映る。

 咄嗟に月華は、空と雲に繋がった異空間に向かって。

 チェーンが繋がったドクロ鉄球を投げつけた。

 異空間の中で「ゴンッ」という鉄球が何かにぶつかった音が聞こえ、用心棒男の前方に出現した異空間から、空間を通過したドクロ鉄球が飛び出してきて、用心棒の顔面を直撃する。

 顔面がドクロ型に凹む用心棒。

「ぐおぉぉぉ!」

 月華がチェーンを引っ張ると、異空間を越えてドクロ鉄球が月華の手元にもどり、空間は閉じた。


 月華は床で呻くチンピラの間を抜けて、奥の部屋で丸裸にされてキズだらけで横臥して泣きじゃくっている稲葉に、チンピラから剥ぎ取ったスタジアムジャンパーを着せて立たせて言った。


「大丈夫か、これに懲りたらウソつきウサギにはなるな。

剥かれて痛む体はガマの穂の上をゴロゴロしてキズを癒せ。

建物の外まで連れ出してやるから、あとは自分の足で歩いて帰れ、いいな」

 孫支部の外まで、スタジアムジャンパーを羽織った稲葉を連れ出した月華は、その足で実家の『玉兎組』に向かった。

 玉兎組の屋敷の門前で立ち止まった月華は、敷居をまたぐことなく。

 取り出したカッターナイフで、後髪を切るとリボンで束ねて門の外に置いて呟いた。

「親父、達者でな………加地山、親父を頼む」

 そう言い残して、髪を切った月華は屋敷から遠ざかる。


 イカリと鉄球を、ボールチェーンで繋いで組み合わせた武器を肩に担いで歩く月華が呟く。

「もう、この星にはいられないな。どうすっかな」

 月華の足元に一枚の紙が風で飛んできた。

 拾い上げて書かれていた内容を見ると、衛星級宇宙船『極楽号』のクルー募集のチラシだった。

「ふ~ん、『防衛迎撃班責任者』募集か………喧嘩なら、あたしにピッタリかもな………『脱兎』から虫喰い惑星の募集会場に行くくらいの旅費はギリギリあるな………その先は、その時々で考えりゃいいや」

 鉄ウサギの月華は、宇宙空港に向かって歩き出した。


  ~おわり~

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