第13話・鉄ウサギの月華〔学生時代〕②


 次の日──月華は町のメインストリートにやって来た。

 通りでは、ニンジンパン販売の馬車を引く巨大ウサギや。

 ティシュやビラを配る、バニーガール姿の女性たちがいた。

 月華は路上で、針金細工のアクセサリーを並べて売っている、ウサギ頭の男性のところに行くと。

 しゃがんで、アクセサリーを眺める。

 惑星『脱兎』には、月華のように頭に擬耳を生やしたヒューマン型の種族と、頭が完全にウサギ頭の二種族がいた。

 ウサギ頭の男が言った。

「聞いたぞ………また、派手にやりあって星の任侠組を一つ潰したそうだな………あまり派手にやると、でかい組から目をつけられるぞ」

 月華は、ウサギのアクセサリーを手に取って眺めながら答える。

「それ、親父と加地山からも言われた」

「そうか」

 ウサギ頭は、それ以上何も言わなかった。

 ウサギ頭男性の近くには、表面にドクロが浮き彫りされた金属球が置かれていた。

 月華は、ウサギ頭の男性に聞いてみる。

「その骸骨球、前から気になっていたけれど、売り物?」

「悪いな、これは売りもんじゃねぇ……どうしても欲しいヤツがいたら、くれてやろうと思っている……こんなもん、欲しがる物好きはいないと思うがな」

 ドクロ球をよく見ると、浮き彫りの溝に乾いた血痕が付着していた。

 取っ手もついているところを見ると、持ち運び可能な武器の一種らしかった。

 月華は、手にして眺めていた宇宙船の金属片を加工して作った、ウサギの髪飾りを置いてあった場所にもどすと立ち上がってアクセサリー屋に言った。

「また、来るから」

「あぁ、いつでも来な」


 通りをブラブラ歩いていた、月華に駆け寄ってきた少女がいた。

 稲葉の妹で、空色の洋服を着てスカートをヒラヒラさせた稲葉と一歳違いの『有栖』だった。

 涙目の有栖が、いきなり月華に向かってナックルを装着した拳で殴りかかりながら叫ぶ。

「お礼参りですぅぅ」

 月華が片手で、殴りかかってきた有栖を弾き飛ばす。

「ひぇぇぇっ、月面宙返りですぅぅラビィィ」

 ゴミステーションに落下した有栖は、リサイクル金属ゴミとして捨てられていたボールチェーンを拾うと、再び涙目で月華に襲いかかる。

「二度目のお礼参りでしゅ、ラビィィ! しゅねぇぇ!」

 月華は有栖の手首をつかんで、ポールチェーンを奪い取って有栖に質問する。

「稲葉に何があった?」


 惑星『脱兎』では、お礼参りを二回続けると、重大な相談事があり助けを求めている意味になる。 

 有栖が顔を涙でクシャクシャにしながら言った。

「稲葉お兄ちゃんが、大きな任侠組の下部組織の子支部の、さらにその下の孫支部の偏差値が低そうなチンピラのクズ数名に連れていかれたですぅラビィィ」

「あいつ、またウソを………余計な火種を撒いたのか。で、その大きな任侠組の名前は?」


 稲葉が連れていかれた任侠組の組名を聞いた途端に、月華の顔色が変わる。

「あのウソつきウサギ! 皮を剥がされて丸裸にされるぞ!」

「お兄ちゃんを助けて欲しいですぅぅラビィィ」

 唇を噛み締める月華。

(相手がでかすぎる、孫支部のチンピラ相手でも、それなりの武器を用意して………覚悟しないと)

 少し考えていた月華が、意を決した表情で言った。

「稲葉は、なんとか助けるから……心配するな」

 小一時間後──玉兎組の屋敷の壁から、組のシンボルの錨が消えた。


 そして、錨とボールチェーンを持って路上でアクセサリーを売っているウサギ頭男の前に立つ、月華の姿があった。

 地面に担いできた錨を突き刺すように置いて、月華が言った。

「そのドクロ球くれ! ついでにこの錨と鉄球をチェーンで繋ぐ細工をしてくれ」

 錨を見たウサギ頭が言った。

「空気砲じゃないか……よくそんな前世紀のものが残っていたな……ゴム弾を装着すれば今でも使える代物だ、その顔は何かでっかい喧嘩をする決意の顔だな。言ってもやめねえだろう。細工に半日待ってくれ」

「待てない、一時間でやってくれ」

「やれやれ、オレが細工したコトは言うなよ」


 一時間に満たない時間で、錨とドクロ球がボールチェーンで繋がる。

 ウサギ頭が月華に言った。

「ほらよ、特別丈夫に繋いでおいた。次元を越えても切れねぇくらい」

「ありがとう、いろいろと世話になった」

 錨鉄球の武器を持って、去っていく月華の後ろ姿に向かって、ウサギ頭の路上のアクセサリー屋が言った。

「死ぬなよ、鉄ウサギの月華!」

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