第10話・ネージ皇帝〔ネオ・サルパ帝国〕② ラスト


 何かを考えていたザガネが、いきなり挙手して言った。

「じゃあ、オレは今日から『ネオ・サルパ帝国』のザガネ総帥だ!」

 酒場内の視線がザガネに集中する、ザガネの言葉に一瞬ポカンとするビスとナット。

「おまえ、何言っているんだ? ネオ・サルパ帝国? 総帥?」

「言うだけタダだろ夢はでかくないと面白くない前々から妄想していた。

オレが総帥になって、新たなサルパ帝国を結成したって悪くはないだろう……資金力と軍事力さえあれば、毎日油まみれの機械工から総帥になって、サルパ帝国再建してやる」

 ビスとナットがザガネの夢話しに微笑む。

「そういうコトか……よし、その話しオレも乗った! オレはビス総統だ!」

「じゃあ、オレはナット元帥だ……誰が最高責任者なのか、わからないが……全員が同等の権限を持つ『ネオ・サルパ帝国』と言うことで」

 ザガネたちはグラスを持って立ち上がると、互いの肘を合わせて決起する。

「ネオ・サルパ帝国結成に乾杯! 金は無いけど夢はある!」

 冗談の雑談で盛り上がっているザガネたちに、酒場の隅席から女性の声が聞こえてきた。

「面白い話しだね……その話し、あたしも乗っかっていいかな? 詳しい計画聞かせて」

 数体のロボット兵士を従えた、赤い髪のサルパ人女が屈託の無い無邪気な笑みを浮かべて、グラスを手にザガネたちに近づいてきた。

 片目にクリアーな眼帯をして、白いリボンの髪飾りをした、サルパ軍制服姿の女性は勝手にザガネたちのカップと自分のカップを打ち合わせて乾杯をした。

「ネオ・サルパ帝国結成♪ これで、あたしも仲間だね……なんて名乗ろうかな、大帝ってまだ出ていないよね。じゃあ、あたしは大帝ってコトで……あっ、自己紹介がまだだったね──あたしの名前はボルトー」


 女性の名前を聞いた途端、ザガネたちは椅子を転げさせるほど驚いた。

「ま、まさか……炎将ポルトー!?」

「サルパ軍の仲間内でも怖れられている豪将!」

 無邪気に微笑む、ボルトーのリボンがピコピコと動く。

「イヤだなぁ、勝手に炎将とか周囲が呼んでいるだけで、たいしたコトはしていないんだけれどね……あたしは、個人所有で宇宙空間移動可能な『クリスタル要塞都市』とロボット兵士軍隊を持っている……資金力と軍事力は、あるんだけれど宝の持ち腐れで。何かしてみたいって前々から思っていたんだけれど……何をしたらいいのかわからなくて……ネオ・サルパ帝国の夢に乗っかってみたい」

 炎将ボルトーのクリスタル要塞都市は、宇宙に浮かぶ輝く絶景星と称されている。

 八方に尖り突き出た結晶群は、光線の加減で七色に変化する。

「あたしのクリスタル要塞都市なら、巨大要塞戦艦や巨大宇宙船も接続格納が可能だよ」

 ネオ・サルパ帝国の夢が一気に実現した。


 その時──酒場に威圧する兵士の声が響いた。

「今から、この場所はネージ皇帝の貸しきりだ、おまえたちは出ていけ!」

 声が聞こえてきた入り口の方を見ると、数名の銃を持ったサルパ兵士を引き連れたネージ皇帝が立っていた。

「ネージ皇帝は、視察途中に休憩で立ち寄った……店主、極上の料理をネージ皇帝に差し上げろ」

 ザガネが小声で「げっ、本物の皇帝が来ちゃったよ」と、言って酒場から立ち去ろうとするのをボルトーは制する。

「なんで、店を出るの……ここは、あたしに任せて座っていて」

 ネージの前に進み出た、マントをなびかせたボルトーが。

 椅子にスカート丈が短い制服の片足を乗せて言った。

「皇帝だからって、横暴すぎない。みんなが楽しく飲んでいるんだから」

 兵士がボルトーに、銃口を向ける。

「貴様、サルパ軍人のくせにネージ皇帝に逆らうのか!」

 ボルトーが、にこやかに答える。

「あたしは異界サルパ軍残党だよ、正規サルパ軍からは除隊された……ちょっと、やりすぎちゃって。味方の宇宙戦艦三隻、クリスタルで串刺しにした」

 サルパ兵士の一人が、ボルトーの正体に気づき、銃を構えた兵士に耳打ちをすると、銃を構えた兵士の顔が青ざめる。


 ボルトーは腰のベルトに差していた木槌を、引き抜いて笑顔で言った。

「あたしに銃口を向けた覚悟はできている? ボコッボコッにしちゃうよ」

 両手を球体ハンマーに変形させた、ロボット兵士がボルトーの後方に並ぶ。

 ボルトーの髪に飾りになって擬態している『髪飾りクラゲ』が、刺した相手の記憶を一時的に失わせる、毒触手を数本伸ばして空中で蠢かせる。

 唇をペロッと軽くナメたボルトーが言った。

「いっくよぅぅ」

 数分後──ボルトーにボコッボコッにされて、床で呻いているサルパ兵士たちがいた。

 ネージ皇帝も、巻き添えを食ったような形で、ボルトーの回し蹴りを受けて飛んできた兵士にぶつかり倒れ床で呻いている。

 ネージに、しゃがんだボルトーが言った。

「まだやる? それとも降参する?」

「降参だ……わたしの負けだ」

「じゃあ、貸しきりはなしだね。そうだ、面白いコト思いついた……ネージもネオ・サルパ帝国の仲間になっちゃいなよ、最初から皇帝だから新サルパ帝国と兼用でいいからさ……決定、あたしはボルトー大帝よろしく」

 ボルトーの奇想天外な発想に、慌てるザガネたち。

 ネージ皇帝は、赤毛の小娘を怪訝な表情で見る。

(なにを言っているんだ……わたしは皇帝だぞ、いや待てよ。ボルトーとか言ったな)

 ネージは、炎将ボルトーが資金力と強力な軍事力を持っているコトを思い出した。

(仲間になるフリをして、軍事力と資金力を利用して、隙を見て新サルパ帝国に取り込めば……それも悪くない)

 ネージが言った。

「わかった、ネオ・サルパ帝国とやらの仲間になろう……ただし、わたしは自由行動をするからな」

「うん、いいよ……皇帝、大帝、総帥、総統、元帥の五人が集まった。ネオ・サルパ帝国に乾杯」


 回想の終わったザガネが呟く。

「運命ってのはわからないもんだな」

 ボルトーに腹を撫でられた三毛ネコは、喉を雷鳴のように鳴らしてボルトーに甘えた。


~おわり~

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