銀牙無法旋律【プチ】

楠本恵士

ネオ・サルパ帝国

第9話・ネージ皇帝〔ネオ・サルパ帝国誕生秘話〕① 【このストーリーは第七章【惑星トーラス】と『ゼブラ砲』と、マオマオくんのどこかの章と関連しています】


 小惑星帯に浮かぶ、岩石惑星を加工して造られた格闘技の聖地【ドーム】──織羅家のウェルウィッチアと、アリアンロード家の美鬼アリアンロードが主催者となって、合同開催されたブロレス興業が終わったばかりの選手控え室。

 ネオ・サルパ帝国の仲間から、絆創膏を貼ってもらっているザガネ総帥は痛そうな声を発した。

「いてててっ、もっと優しく貼り直してくれよ──ナット元帥」

 頭全体を空中金魚にパクッと、食われ包まれているナットがザガネに貼られた、汗に濡れて半分剥がれた絆創膏を勢いよく剥がす。

「いてぇぇ!」

「少しは我慢しろ、おまえもネオ・サルパ帝国の総帥だろうが」

「総帥でも痛いものは痛い、ロボット兵士の方がもっと優しく剥がすぞ……いててっ」


 汗で濡れた絆創膏を貼り直し終わったザガネは、愛猫の巨大三毛ネコに引っ掻かれた、頬の傷を撫でながら呟く。

「それにしても、あの覆面軟体女子レスラーなんなんだ。オクトパスホールドって、ほとんどタコじゃねぇか。あんなのアリかよ」


 近くの椅子に座り頬杖をして、等身のオウム生物に、スキンヘッドをガシガシ噛みつかれているビス元帥が言った。

「おまえが、あそこでギブアップしなけりゃ勝てたのに……根性ないヤツだな」

 ビスが傷だらけになったスキンヘッドに噛みついている、ペットの巨大オウムに言った。

「おいっ、何度言ったらわかるんだ。オレの頭は木の実じゃないぞ、割っても脳ミソしか出てこないぞ……まったく、買った時は肩に乗る小鳥程度の大きさだったのに……でかくなりやがって」


 ザガネは、等身の巨大三毛ネコ。

 ナットは、空中を泳ぐバルーンのような金魚。

 ビスは、等身のオウムをそれぞれ飼っている。


 パイプ椅子に座ったザガネは、控え室で毛づくろいをしている、等身の三毛ネコを眺めながら言った。

「結局、ネージは最後までプロレス会場に来なかったな」

 ビスが答える。

「しかたがないよ、ネージ皇帝だけは。ネオ・サルパ帝国の中でも特別だから……あいつは、新サルパ帝国皇帝も兼用している、本物の皇帝だから」


 頭の金魚を引き抜いて壁に投げつけた、顔が粘液まみれのナットが言った。

 投げつけられた金魚は平然と、浮かび上がって空中を泳ぐ。

 バルーン金魚の表皮は丈夫だ。

「ネージは、またどこかの星域に侵攻でもしているんだろうよ……まぁ、オレたちの、ネオ・サルパ帝国と計画が被らないように行動しているのは、さすがだけれど」


 その時、控え室の自動ドアが開いて、軍服姿でマントをなびかせた。二体のロボット兵士を従えた、燃えるような赤い髪のサルパ美女が入ってきた。

 ピンク色に水色のトラ柄模様が入ったサルパ肌の、赤い髪の美女の後頭部には、白いリボンの髪飾りが付いていて。

 片目にはクリアー素材の眼帯が付けられている。

 赤い髪のほがらかな美女──ボルトー大帝が、従えてきたロボット兵士が抱える保温容器から、缶飲料を数本取り出して言った。

「飲み物持ってきたから、みんなで飲もう……ザガネ、プロレスの試合お疲れさま。ナイスファイトな試合だったよ」

 ボルトーの放り投げる缶飲料を、三人はそれぞれキャッチする。


 ネオ・サルパ帝国の仲間に差し入れを渡したボルトーは、三毛ネコの近くにしゃがんで、腹部を無防備に露出させた等身ネコの腹を撫でる。

「ネコちゃん、ネコちゃん」

 と、言いながら三毛ネコと戯れているボルトーに、炎将ボルトーと呼ばれてサルパ帝国の中でも怖れられている雰囲気は微塵も感じられない。


 缶飲料を飲みながらザガネが言った。

「こうして、みんなで集まっていると思い出すな……ネオ・サルパ帝国を結成した日のコトを」

 ナットとビスが、うなづく。


 ザガネ、ナット、ビスの三人はそれぞれ、サルパ帝国残党で機械工・配線工・配管工の仕事をしていた。

 三人は、いつも仕事が終わると惑星全体が飲み屋街の惑星にある、馴染みの店に集まって飲んでいた。


 サルパ人以外の異星人もやって来る飲み屋で飲んでいる作業服姿の、ザガネ、ナット、ビスの三人──ザガネが、数日前に拾った三毛ネコを膝に乗せて、ネコの頭を撫でながら言った。

「やっぱり、こんな辺境の星域だと。オレたちサルパ作業員は、異界サルパ軍残党の中でも忘れ去られた存在だよな……なんて言ったっけ、逃げてきた元宇宙でサルパ帝国軍を一隻で全滅させた、あの戦艦空母の名前」

 肩に乗せた小鳥のようなオウムに、木の実を与えているビスが答える。

「『ナガト』だよ、宇宙戦艦空母『ナガト』」

「そうそう……その戦艦空母に破れ、別宇宙の『銀牙系』なら楽に侵略できるだろって安易な考えが、異界サルパ軍残党を生み出したんだよな」


 夜店の空中金魚取りで捕まえた、小さな風船のようなバルーン金魚の尾に紐を結びつけて空中を泳がせているナットが言った。

「銀牙系ではキャプテン鳳凰の宇宙海賊の連合に、ボコボコにされたしな……知っているか、サルパ帝国の皇帝の遠縁の者が、勝手に皇帝を名乗って『新サルパ帝国』を結成したらしいぞ……確かネージ皇帝とか言ったな、銀牙海賊連合は解散したが、他から目をつけられないように、地味に活動しているらしい」

「ふ~ん、勝手に皇帝を名乗ってもいいのか……」

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