第8話・仁・ラムウオッカ〔子供時代〕④ラスト


 次の日の夕刻──仁は、師匠に言われた通り河原にやって来た。

 舟の櫂を削って自作した木刀に、牛の骨を当てて木目を詰めながら待つ仁・ラムウオッカ。

 夕闇の迫る中、金棒を持った鬼が河原に現れた。鬼男の腰には宇宙日本刀があった。

 鬼男が言った。

「さすがに、鬼が現れても驚かねぇか」

 鬼男が金棒を振って仁に襲いかかってきた。

 剣波コーティングした木刀で、振り下ろされた金棒を受け止める仁。

 赤鬼は間髪を入れずに、仁に襲いかかってくる。

「どうした、おまえの力はそんなモノか! 本気を出さないと、本当に鬼に殺されるぞ!!」

 その時、河原を疾走してきた影が鬼男の剣波をまとった金棒を、刀で受け止めた──弟弟子のゴーグルサングラス男だった。

 鬼男がキツネ耳に怒鳴る。

「邪魔をするな!」

「殺させはしない……あなたも、少年も」 

 金棒と刀がぶつかり合う音が響き、火花が散る。

 その時、仁の一閃が鬼とキツネの体に炸裂した。

 兄弟子と弟弟子は、河原に倒れる。

 しばらくして、腹を押さえてその場に座り込む、鬼とキツネ。

「痛てて、仁てめぇ……打たれると、しばらく体が痺れて動けなくなる痺穴を狙いやがったな……そんな技、オレが学んだ流派には存在しねぇ……おまえいったい何者だ?」

 仁が言った。

「そうなのか……知らなかった、オレは流派の免許皆伝とか剣の達人を目指すとかは興味ない……これだけ剣技を修得できれば十分だ……仮弟子は今をもって破門させてもらう」

「破門ってのは、師匠から弟子に言う言葉だ……弟子の方から破門するなんて聞いたコトはねぇ」


 仁が言った。

「破門だから、もう師匠には会わない……今までありがとうございました」

 頭を下げて、去っていこうとする仁に向かって、鬼男が質問する。

「今まで一度も聞かなかったが……仁は、なんのためにオレに近づいて剣術を覚えた?」


 仁が言った。

「自分が生きていくため……そして」

 少しだけ考える仕種をしてから。仁・ラムウオッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインが言った。

「他人が生きていくため」

 そう呟いて、数歩歩き出した仁に鬼男が言った。

「待ちな、破門の餞別だ、持っていきな」

 鬼鬼は持っていた宇宙日本刀を、放り投げて仁はキャッチする。

「個性が激しい魔刀だが、おまえなら使いこなせるだろう……刀の名前は、おまえがつけろ」


 鬼男に続いてキツネ擬耳男が仁に言った。

「わたしの、間違いだった……てっきり、野党に殺された家族の復讐心から、忌みの剣を修得しているのだと思っていたが……違っていたようだ、疑っていた詫びにこれを」


 キツネ耳男は、かけていたゴーグル型サングラスを外して、仁の方に放り投げる──サングラスを受け取った仁は、銀髪のキツネ耳男の顔を見て思わず「あっ!?」と、声をもらす。

 キツネ耳男の両目は、刀傷で完全にふさがれていた。

 腰に吊るした朱ヒョウタンの中に入った、救世酒を飲みながら鬼男の師匠が仁に別れの言葉をかける。

「どこへでも好きな所へ行っちまえ、世界の果てでも、宇宙でも……元気でな、オレの最初で最後の仮弟子」

 仁は、深々と頭を下げると去っていった。

 その目には、師匠には見せたくなかった涙が浮かんでいた。


 仁がいなくなると、鬼男が弟弟子に爽やかな笑顔で言った。

「弟子から反対に教えられたな……まさか、あいつが学んでいたのは、人を活かす活人剣だったとは」

「わたしたちを長年縛っていた忌まわしい鎖を、あの少年は解き放ってくれた……剣技と流派は使う者次第で、殺人剣にも活人剣にもなると……教えられました」

「どうだ、久しぶりに酒を酌み交わさないか……兄弟子と弟弟子で」

「いいですね、飲みましょう」

「ところで、あいつの名前なんて言ったかな? 仁・ラムウオッカ……そっから先は長すぎて覚えていねえや……まっ、いっか」

 鬼男の豪快な笑い声が山と山の間で反響した。


仁・ラムウオッカ〔子供時代〕~おわり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る