第7話・仁・ラムウオッカ〔子供時代〕③
仁が鬼の師匠がいる山に向かうため、今日も村の広場を通り過ぎようとした時──仁を呼び止める男の声がした。
「おまえか、山にいる鬼人に会って、剣の修行をしているらしいと村人が話していた少年は」
鬼岩の切断面に背もたれ立った、長身の男が仁に近づく。
若い男は、黒光りするゴーグル型のサングラスで両目を隠し、腰の刀帯に刀を差している──頭にはキツネ擬耳が生えている異星人種族だ。
銀髪長髪の、キツネ擬耳サングラス男が言った。
「村人から聞いた、おまえの家族は野党に襲われて、皆殺しにされたそうだな……父、母、姉の三人が殺され。たまたま父親の言いつけで町に買い物で出ていた、おまえだけが生き残った。剣は復讐のためか?」
仁は、無言で男に背を向けると、いつものように山に向かって歩きはじめる。
「待て、まだ話しは終わっていない……山にいる鬼人種の男から剣術を習うのはやめろ! おまえが修得しようとしているのは、忌むべき魔剣の技だ! それでも行くと言うなら斬る!」
銀髪のサングラス男が、刀の柄に手をかけたのと。
仁・ラムウオッカが背負った、櫂の木刀を引き抜いて、離れた男に向かって振り下ろしたのは同時だった。
銀髪男の背後の木が、振り下ろした木刀の剣波を受けて、爆発するように飛び散る。
刀の柄に手を掛けたまま動けないでいる、銀髪男を無視して仁は、鬼がいる山へと歩いて行った。
銀髪男の頬に汗が流れる。
(バカな、爆裂剣波を放っただと……あんな子供が……兄弟子は、剣の悪鬼を作ろうとしているのか?)
銀髪男に仁が出会った、その日の剣の修行は無かった。
鬼男は仁を、山にある平らな岩の自然の展望台に連れていった。
展望台から見える絶景……宇宙へと飛んでいく、貨物宇宙船が見えた。
腕組みをして立った鬼男が仁に訊ねる。
「おまえ、家族は?」
「いない……おまえじゃない、仁・ラムウオッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインだ」
「そうか、家族はいないか……オレと同じだな。もっともオレには、同じ師匠で学んだ弟弟子がいるが」
「仁の剣の腕前が、どのくらい上達したかの試験だ……明日の夕刻、山の河原に来い。
河原に一人の男が現れる……戦って男を倒せ、現れた男は本気で仁を殺そうとするからな……死にたくなかったら、仁も本気で男を殺せ……いいな」
鬼男は、薄雲を抜けて飛んでいく、貨物宇宙船を眺めながら仁に言った。
「いつかは、この星を出て宇宙へ行ってみろ……宇宙は広いぞ」
その時──展望台岩の背後の木の陰から、仁が村で出会った銀髪キツネ耳男の声が聞こえてきた。
「この星にいましたか……兄弟子」
鬼男が仁に行った。
「仁、今日はこれで帰れ」
黙ってうなづいた仁は、キツネ耳のゴーグルサングラス男の横をすり抜けて、帰るフリをして樹の陰から様子をうかがう。
キツネ耳が言った。
「話しは少し聞かせていただきました……いったい何を考えているのですか、わたしたちが師従して学んだ、この忌むべき剣の流派に、どんな結末が待っているのか知らないワケでもないでしょうが……兄弟子のあなたなら」
鬼男は無言で背を向けて立っている、キツネ耳が話し続ける。
「わたしと兄弟子で、この忌むべき剣の流派は終わらせようと誓ったではないですか……流派名も封印して後世に残さないようにしようと誓いを立てた……あの日が来るまでは」
「免許皆伝の最終試練日のコトを言っているのか……師匠から認められていた、弟弟子のおまえに嫉妬しただけだ」
「ウソです、あなたは最初から知っていた……わたしたちが学んでいた剣が、師匠を殺すコトで完成する魔刀の流派だと。
だから、わたしより先に師匠が指定した場所に出向いて師匠を殺した……わたしに師匠殺しの悲しい重荷を背負わせないために、そしてあなたは秘伝書を盗み出して姿を消した」
「勝手な妄想だな……オレは強くなりたかっただけだ、才能があった弟弟子に嫉妬していただけだ」
山肌を吹き上げてくる風の中、キツネ耳男が言った。
「あの少年にも、一生消えない師匠殺しの重荷を背負わせるつもりですか……それとも、自分の罪の償いを、あの少年を使って行うつもりですか……すでに気づいているんでしょう、あの少年の恐ろしいほどの剣の才能を……兄弟子を殺させはしませんよ、あの少年も殺させません」
背を向けたままの、鬼男に背を向けてキツネ耳男は歩き出した。
仁が隠れている樹の近くまで来た、キツネ耳男が呟く。
「いいか、明日は絶対に河原に来るな……わかったな」
キツネ耳男は水マンジュウのようなモノが入った容器から、卵の黄身のようなプヨプヨした水の塊を摘まんで口に入れた。
仁が反抗気味な口調で答える。
「それは、来いってコトのネタ振りか……絶対に押すなと同じ意味の」
「この野郎! ふざけるな! 来るなと言ったら来るな!」
キツネ耳男は、怒りながら山を下りて行った。
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